サンフランシスコ条約11条-極東国際軍事裁判所の判決 ― 2005年10月16日
サンフランシスコ条約11条により、日本国は、極東国際軍事裁判所の裁判(判決)を受諾しました。「極東国際軍事裁判所の裁判を受諾」とは、いったいどういうことでしょう。このためには、「極東国際軍事裁判所の判決」とは、何であるのか、具体的内容を知る必要があります。
日本国はポツダム宣言を受諾しました。ポツダム宣言第10条には「一切ノ戦争犯罪人ニ対シテハ厳重ナル処罰加ヘラルベシ」となっており、戦争犯罪人の処罰が約束されていました。1946年1月19日、ポツダム宣言第10条および降伏文書に基づき、「極東国際軍事裁判所条例(極東国際軍事裁判所憲章)」が制定されました。さらに、1946年5月3日、同条例に基づき、極東国際軍事裁判所が開廷、A級戦犯の裁判が始まりました。極東国際軍事裁判所は東京におかれたので、通称「東京裁判」といいます。裁判は2年半の審理の後、1948年4月16日に結審し、長い休廷に入ります。そして、結審後半年以上たった、11月4日午前9時30分、判決の言い渡しが始まりました。
極東国際軍事裁判所の判決文は、次の10章と付属書A・Bからなり、英文で1212ページにのぼっていました。
第一章 本裁判所の設立および審理
第二章 法
一 本裁判所の管轄権
二 捕虜に関する戦争犯罪の責任
三 起訴状
第三章 日本の権利と義務
第四章 軍部による日本の支配と準備
第五章 中国に対する侵略
第六章 ソ連に対する侵略
第七章 太平洋戦争
第八章 通例の戦争犯罪
第九章 起訴状の訴因についての認定
第十章 判定
判決文の読み上げにあたって、ウエッブ裁判長は、これから自分は、ジャッジメントを読み上げる、というところから始めています。即ち、極東国際軍事裁判所のジャッジメントとは、この判決文(あるいはその内容)のことであることを宣言しています。
膨大な量のため、判決文の読み上げに7日を要しました。すなわち、第1日目の11月4日は、第四章途中まで読まれ、11月5日はさらにこれが続き、11月8日,9日には第五章、11月10日には第六章・第七章、11月11には第八章の途中まで読まれました。
11月12日、最終日には、第八章の残りの部分が読まれた後、第九章「起訴状の訴因についての認定」が読み下されました。訴因の一部が削除されて、罪状は10項目です。引き続いて、荒木被告からアルファベット順に、被告25人に対して、訴因ごとの有罪・無罪の判定が読み下されました。その後15分の休息ののち、一人一人を呼び出して「刑の宣告」が言い渡されました。
なお、法廷で朗読された判決文は多数意見だけでした。少数意見・別個意見は法廷では朗読されず、後日、弁護人と記者団に渡されています。このうち、インドのパル判事の少数意見は、1200ページを超え、判決文(多数派意見)を上回る分量がありました。
* * * * *
さて、サンフランシスコ条約11条では「Japan accepts the judgments of the …」となっています。judgmentの用語には、そもそも、「裁判所の設立・法理」などの意味が含まれているのでしょうか。それとも、単に「判決文」の事を指しているのでしょうか。
しかし、サンフランシスコ条約11条を解釈するに当たって、どちらでも同じことです。「judgment」が、単に「判決文」の事を指しているとしても、判決文の中に、「裁判所の設立、審理、根拠、事実認識、起訴状の認定、判定、刑の宣告」、これらすべてが含まれています。第十章 判定の最後に書かれている「刑の宣告」は極東国際軍事裁判所の判決のごく一部に過ぎません。
判決には、判決理由が必ず含まれます。
極東国際軍事裁判所条例、第十七条では「判決ハ公開ノ法廷ニ於テ宣告セラルベク,且ツ之ニ判決理由ヲ附スベシ」となっていて、判決理由が含まれることが義務付けられています。日本の刑事訴訟法でも、第四十四条には「裁判には、理由を附しなければならない」となっています。民事訴訟法、第二百五十三条には、「判決書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。 主文、事実、理由、口頭弁論の終結の日、当事者及び法定代理人 、裁判所」となっています。判決には、法理が必ず含まれるわけです。さらに、裁判所の名称も含まれます。このため、裁判所の正当性は、判決の中に当然に含まれているのです。
* * * * *
靖国神社のホームページを見ると。(http://www.yasukuni.or.jp/siryou/siryou4.html)
日本語正文で「裁判」と翻訳されている単語「judgment」は、英米の法律用語辞典に照らしてみても「判決」と訳すのが適当のようです。この条文の大切な部分を「裁判」を受諾すると解するのと、「判決」を受諾すると解するのとでは、条文の意味(内容)が随分変わってきます。
『英米の法律用語辞典に照らしてみても「判決」と訳すのが適当のようです』と書かれています。正しい翻訳とは英語を辞書で引けばそれで済むわけではなく、「judgment」の具体的内容を調べる必要があることは明らかなのに、ずいぶんとずさんな解説です。
『「裁判」を受諾すると解するのと、「判決」を受諾すると解するのとでは、条文の意味(内容)が随分変わってきます』とも書いてあります。「裁判」と「判決」とでは、法律用語としてはほとんど違いがないことを説明しました。
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2005/09/21/82024)
「極東国際軍事裁判所の判決」を実際に見れば、サンフランシスコ条約11条によって日本が受諾した極東国際軍事裁判所の裁判(判決)には、「裁判所の設立、審理、根拠、事実認識、起訴状の認定、判定、刑の宣告」これらすべてが含まれていることが、良く分かります。
(この話題は今後もう少し続けます。)
日本国はポツダム宣言を受諾しました。ポツダム宣言第10条には「一切ノ戦争犯罪人ニ対シテハ厳重ナル処罰加ヘラルベシ」となっており、戦争犯罪人の処罰が約束されていました。1946年1月19日、ポツダム宣言第10条および降伏文書に基づき、「極東国際軍事裁判所条例(極東国際軍事裁判所憲章)」が制定されました。さらに、1946年5月3日、同条例に基づき、極東国際軍事裁判所が開廷、A級戦犯の裁判が始まりました。極東国際軍事裁判所は東京におかれたので、通称「東京裁判」といいます。裁判は2年半の審理の後、1948年4月16日に結審し、長い休廷に入ります。そして、結審後半年以上たった、11月4日午前9時30分、判決の言い渡しが始まりました。
極東国際軍事裁判所の判決文は、次の10章と付属書A・Bからなり、英文で1212ページにのぼっていました。
第一章 本裁判所の設立および審理
第二章 法
一 本裁判所の管轄権
二 捕虜に関する戦争犯罪の責任
三 起訴状
第三章 日本の権利と義務
第四章 軍部による日本の支配と準備
第五章 中国に対する侵略
第六章 ソ連に対する侵略
第七章 太平洋戦争
第八章 通例の戦争犯罪
第九章 起訴状の訴因についての認定
第十章 判定
判決文の読み上げにあたって、ウエッブ裁判長は、これから自分は、ジャッジメントを読み上げる、というところから始めています。即ち、極東国際軍事裁判所のジャッジメントとは、この判決文(あるいはその内容)のことであることを宣言しています。
膨大な量のため、判決文の読み上げに7日を要しました。すなわち、第1日目の11月4日は、第四章途中まで読まれ、11月5日はさらにこれが続き、11月8日,9日には第五章、11月10日には第六章・第七章、11月11には第八章の途中まで読まれました。
11月12日、最終日には、第八章の残りの部分が読まれた後、第九章「起訴状の訴因についての認定」が読み下されました。訴因の一部が削除されて、罪状は10項目です。引き続いて、荒木被告からアルファベット順に、被告25人に対して、訴因ごとの有罪・無罪の判定が読み下されました。その後15分の休息ののち、一人一人を呼び出して「刑の宣告」が言い渡されました。
なお、法廷で朗読された判決文は多数意見だけでした。少数意見・別個意見は法廷では朗読されず、後日、弁護人と記者団に渡されています。このうち、インドのパル判事の少数意見は、1200ページを超え、判決文(多数派意見)を上回る分量がありました。
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さて、サンフランシスコ条約11条では「Japan accepts the judgments of the …」となっています。judgmentの用語には、そもそも、「裁判所の設立・法理」などの意味が含まれているのでしょうか。それとも、単に「判決文」の事を指しているのでしょうか。
しかし、サンフランシスコ条約11条を解釈するに当たって、どちらでも同じことです。「judgment」が、単に「判決文」の事を指しているとしても、判決文の中に、「裁判所の設立、審理、根拠、事実認識、起訴状の認定、判定、刑の宣告」、これらすべてが含まれています。第十章 判定の最後に書かれている「刑の宣告」は極東国際軍事裁判所の判決のごく一部に過ぎません。
判決には、判決理由が必ず含まれます。
極東国際軍事裁判所条例、第十七条では「判決ハ公開ノ法廷ニ於テ宣告セラルベク,且ツ之ニ判決理由ヲ附スベシ」となっていて、判決理由が含まれることが義務付けられています。日本の刑事訴訟法でも、第四十四条には「裁判には、理由を附しなければならない」となっています。民事訴訟法、第二百五十三条には、「判決書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。 主文、事実、理由、口頭弁論の終結の日、当事者及び法定代理人 、裁判所」となっています。判決には、法理が必ず含まれるわけです。さらに、裁判所の名称も含まれます。このため、裁判所の正当性は、判決の中に当然に含まれているのです。
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靖国神社のホームページを見ると。(http://www.yasukuni.or.jp/siryou/siryou4.html)
日本語正文で「裁判」と翻訳されている単語「judgment」は、英米の法律用語辞典に照らしてみても「判決」と訳すのが適当のようです。この条文の大切な部分を「裁判」を受諾すると解するのと、「判決」を受諾すると解するのとでは、条文の意味(内容)が随分変わってきます。
『英米の法律用語辞典に照らしてみても「判決」と訳すのが適当のようです』と書かれています。正しい翻訳とは英語を辞書で引けばそれで済むわけではなく、「judgment」の具体的内容を調べる必要があることは明らかなのに、ずいぶんとずさんな解説です。
『「裁判」を受諾すると解するのと、「判決」を受諾すると解するのとでは、条文の意味(内容)が随分変わってきます』とも書いてあります。「裁判」と「判決」とでは、法律用語としてはほとんど違いがないことを説明しました。
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2005/09/21/82024)
「極東国際軍事裁判所の判決」を実際に見れば、サンフランシスコ条約11条によって日本が受諾した極東国際軍事裁判所の裁判(判決)には、「裁判所の設立、審理、根拠、事実認識、起訴状の認定、判定、刑の宣告」これらすべてが含まれていることが、良く分かります。
(この話題は今後もう少し続けます。)