北方領土問題-日本の外で固有の領土論は説得力をもつのか2007年02月11日

 日本政府は、日本国民に対して、北方領土要求の最大の論拠を固有の領土論であると、説明している。日本国内向けに日本語で説明している間は、日本語のフィーリングで、日本政府の言説が正しいと感じるように言えば良いのであろう。固有の領土論はその限りにおいて有効である。しかし、固有の領土論は日本以外で説得力をもつのだろうか。

 昨年6月に次の本が出版された。
 『国境・誰がこの線を引いたのか-日本とユーラシア(岩下明祐/編著 北海道大学出版会)』
 この本は7つの章からなり、それぞれ執筆者が異なる。
 5つの章はコーカサス、中央アジア、印パ・中印国境、南シナ海、中ロ国境のそれぞれに対して、国境問題の現状や歴史的経緯、あるいは解決に至った道筋などの事実を説明している。これらの国境問題について、日本ではあまり知られていないので、国境問題を考える上で大いに参考になる。

 これらの章とは異なって、第一章は林忠行氏の『日本の外で固有の領土論は説得力をもつのか』との章題で、ドイツの事例を参照して、固有の領土論が国際社会で説得力をもたないことを説明している。なお、雑誌『しゃりばり』2005年9月号に同じ著者による同タイトルの論文が掲載されている。
 日本政府は北方領土要求の根拠に『固有の領土』論を掲げており、これが、最大の論拠となっている。現在、日本政府の固有の領土論は、ロシアはもとより、国際社会でほとんど理解されていないのが現状である。林忠行氏は、ドイツの領土問題の解決を参考に、『固有の領土』の考え方が、ヨーロッパで通用しないことを説明している。だからといって、林忠行氏が北方領土要求を批判しているわけではないが、ロシアを含むもう少し大きな視点で捉えないと、出口がないのではないかとの意見をである。

 日本政府は、『固有の領土』とは、「日本の領土になる以前に、一度も外国の領土になったことのない領土」と定義している。ここで、外国とは近代国家のことで、アイヌ社会のような近代国家を持たなかったものは完全に無視している。
 林忠行氏の説明によると、日本政府は固有の領土を英語で『an integral part of Japan's sovereign territory』と説明しているようであるが、この英語では、戦後ドイツから割譲したポーランド西部をポーランドが領土主張の根拠としている状況と同じで、日本政府が日本国民に向けて説明している『固有の領土』の定義とはずいぶんと異なるとのことである。

コメント

_ motomichi ― 2007年02月12日 21時36分35秒

こんばんは。
日本の返還要求の理由は、1945年の段階でのソ連側の条約違反と、旧島民の権利回復だけで十分だと思います。
それを「固有の領土」論を持ち出すので、説得力がなくなっているのだと思います。
日本国は無主地占有の理論をふりかざしますが、歴史的に外交は部族レベルの権力をもって国家と対等の交渉相手とみなします。
「固有の領土」論は、アイヌ人の部族の存在だけで出鱈目であることが証明されます。
南千島については、日本人もロシア人も後からやってきた人々だと言う事実を啓蒙する必要があるでしょう。

実は、吹浦先生にこのことを投稿したら、どうやらむくれてしまったようで、吹浦先生のような比較的立派な方でも、どうしても日本人だけの理屈で「固有の領土」だと言い張りたいようなのです。
http://blog.canpan.info/fukiura/category_4/

私の関心は、何故彼らが「固有の領土だと思いたいのか」に移っています。
どなたか、こういうアプローチをされている方をご存じないでしょうか?

_ itsumohappy ― 2007年02月13日 01時06分31秒

優秀な外務官僚自身が、「固有の領土」論が説得力を持たないことはわかっているんじゃないかと思います。
そして、過去の条文とかいろんな観点から見ても、「4島は放棄した千島に含まれない」とかは、こじつけのような論理であることも。
でも冷戦期から受け継がれてきた外交方針は変えられないんでしょうねぇ どういう事情があるのかはわかりませんが。
ずーーっと同じことを「粘り強く」言っていてもそのうち国民は忘れてしまうんじゃ?

佐藤氏などが言っている、知床の延長・共同管理というアイデアはよいと思うのですが。

_ Tarakowski ― 2007年02月13日 15時25分12秒

編者の岩下さんの名前が文中では岩本さんになってますね。林さんは大昔学生時代に色々お世話になった方でチェコのマサリク、ベネシュなど教えて頂きました。そもそも国境線というのは近代国民国家の原点ともいうべき出発点なので、21世紀にこの問題を抱えていること自体が特殊なことだと私は思います。

_ cccpcamera ― 2007年02月14日 08時29分21秒

Tarakowskiさま。ご指摘ありがとうございます。あわてて直しました。

motomichiさま。
 日本の返還要求理由に、「1945年の段階でのソ連側の条約違反」を掲げることは困難なのではないかと思います。ソ連はルーズベルトの要請で、チャーチルの了解を得て、参戦しています。さらに、ソ連の参戦は条約に違反していないことが、東京裁判の判決の中に示されています。いまさら、米英の責任追及や東京裁判を覆すことは困難と思います。
 「旧島民の権利回復」とは、どういう意味でしょうか。

itsumohappyさま。 日本は、「固有の領土」論が説得力を持たないことはわかっていて、それに、わざと固執しているような気がしてなりません。絶対に日本の要求は通らないので、北方領土問題は永遠に解決しない、永遠に返還運動利権にありつける。こんなおいしい商売はありません。

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