トムラウシ遭難考(9)―トムラウシ山遭難事故調査報告書2010年06月30日

2009年7月16日、トムラウシ中高年ツアー登山の大量遭難があった。悪天候の中、次々と低体温症を発症し凍死した。この件について、事故後から11月ごろまで、このBlogでもいろいろと書いてきたが、登山メンバーに対して辛口の評価となっている。

昨年11月のBlogでは、ガイド協会調査委の中間報告を良く読んだ上で、もう一度考えてみようと思うと書いた。(http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2009/11/04/4675426
今年の3月初めに最終報告書が公開されている(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf)。文章も内容も不十分な点はあるが、事故の経緯・低体温症・気象状況を詳細にまとめ、さらに、今後の提言まで含まれた、豊富な内容になっている。最終報告書が出てからすでに4カ月経過し、報告書に対しても多くの意見がある。

 トムラウシ遭難の死亡原因は低体温症による凍死だった。当初、悪天候下、登山を強行し、多くの登山客が全身ずぶぬれになったために低体温症になったかのような報道がなされた。
 私には疑問でならなかった点がいくつもあった。
 「①どの程度の悪天候だったのだろうか」
 「②当日登山を決定したガイドの判断は誤りであると断言できるのだろうか」
 「③まともなレインウエアーで下着までずぶぬれになるのだろうか」
 「④低体温症の原因は何か」  
 「⑤ビバーク地点が2つになったのはなぜか」
 「⑥登山者は全員が人命救助を優先したのだろうか?」
 さらに、「⑦危機に遭遇した時登山者はどのような態度をとるべきか」という点が気になった。

 報告書をみると、明らかにされたことがいくつかある。

 ①どの程度の悪天候だったのだろうか
 トムラウシ山遭難事故調査報告書のP80~P88に遭難発生時の気象について詳しく書かれている。
 『7月16日のトムラウシ山の気象は、大雪山では例年起きている気象状況であり、決して特異な現象ではない。また、同様の気象状況は、北アルプスの稜線付近でも起きていることが確認された。
 
 ③まともなレインウエアーで下着までずぶぬれになるのだろうか
 女性客Hさんは、低体温症になって南沼でビバークし無事生還したが、Hさんによると雨具を通しての濡れはなかったとの証言している(トムラウシ山遭難事故調査報告書P54) 。このため、レインウエアーの性能に問題はなく、多くの人が下着までずぶぬれになったわけではない

 ②当日登山を決定したガイドの判断は誤りであると断言できるのだろうか
 報告書では、判断の誤りとしているが、理由は良く分からない。

 ④低体温症の原因は何か
 報告書では低温と強風としているようだが、詳しく解明していない。
 なお、報告書には、同じ日に同じコースを歩いた伊豆山岳会の証言が記載されている。
『トムラウシ分岐付近よりメンバーのA(67歳、女性)さんがよろよろし出し、足がふらついてまっすぐ歩けず、仲間の問いに対する返答がなくなった。…仲間が差し出したお湯を5杯飲んだ。この時、ザックからダウンジャケットを出して雨具の下に重ね着した。』
 ザックにダウンジャケットがあったのに、それを着ないでいたら低体温症になっているようである。低体温症になる前に着なかった理由は記されていない。
 着るものがなかったとか、あったけれど濡れてしまったとか、そういうことが原因ならば、装備不良・装備ミスとも言えるし、気温が低かったためだともいえるだろう。でも、防寒具を持っていたにもかかわらず、使わなかったために低体温になったのだとしたら、装備の問題でも気温の問題でも無く、別な原因ではないか。

 ⑤⑥⑦について、報告書には明確な記述はない。


後日、続きを書きます

トムラウシ遭難考(10)-気象条件2010年06月30日

2009年7月16日、トムラウシ中高年ツアー登山の大量遭難があった。悪天候の中、次々と低体温症を発症し凍死した。今年の3月初めにトムラウシ山遭難事故調査報告書が公開されている(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf)。
P80~P88に遭難発生時の気象について詳しく書かれている。ここでは、「聞き取り調査からの推測」「周辺気象官署観測値よりの推測」「大雪山・五色観測サイトにおける気象観測からの推測」が行われ、以下の結論を得ている。
7月16日のトムラウシ山の気象は、大雪山では例年起きている気象状況であり、決して特異な現象ではない。また、同様の気象状況は、北アルプスの稜線付近でも起きていることが確認された。』

札幌上空800hPaにおける気象データは、標高2000mに相当し、トムラウシの気象条件を推定するために便利であり、公開データはExcelに容易に取り込めるので、2008年7,8月と2009年7,8月の温度・風速をグラフにした。

下のグラフは、2008年、2009年の温度変化。トムラウシ遭難の時の温度を矢印で示している。前日よりもずいぶん低温ではあるが、決して特異な低温ではない。(画像をクリックすると拡大します。)

気温

下のグラフは、2008年、2009年の風速変化。トムラウシ遭難の時の風速を矢印で示している。かなりの強風であることが分かる。「ひと夏に数日しかないほどの強風」というのか、「ひと夏に数日程度はある」と考えるのか、人によりけりでしょう。なお、グラフには描かなかったが、秋から春にかけて、連日、さらに強風の日が続くことは珍しくない。(画像をクリックすると拡大します。)

風速

トムラウシの遭難は悪い気象条件で起こったことは確かだけれど、どの程度悪い気象条件だったのかということは、グラフをみると、だいたい推測がつくでしょう。

2009年7月、2008年7月の風速では、トムラウシ遭難が起こった2009年7月16日の風速はずいぶん大きかったように感じられる。しかし、年によっては、もっと風が強いこともあるので、トムラウシ遭難のときが特別に風が強かったわけではない。参考のために、2009年7月と2000年7月の札幌上空800hPa(2000m程度の高度に相当)の風速の比較図を記す。矢印のところがトムラウシ遭難当日を表している。

* * * * * *

<< 2010/06 >>
01 02 03 04 05
06 07 08 09 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30

RSS