トムラウシ遭難考(11) ― 登山を決定したガイドの判断は誤りか2010年07月01日

2009年7月16日、トムラウシ中高年ツアー登山の大量遭難があった。悪天候の中、次々と低体温症を発症し凍死した。登山で遭難してはいけないので、遭難した場合、登山したことは誤りであったと言える。その意味で、昨年7月16日のトムラウシ遭難では、結果として登山を決行したガイドの判断は誤りだった。しかし、一般的に言って、同様な気象条件・パーティーの状況で登山を決行することは誤りなのだろうか。

「トムラウシ山遭難事故調査報告書」では、ガイドの判断ミスとしている。
本遭難事故要因の検証と考察―現場におけるガイドの判断ミス
 本遭難事故は、一義的にはリーダーをはじめガイド・スタッフ(以下、スタッフ)の判断ミスによる「気象遭難」と言えるだろう。
 まず、第1 のポイントは、初めから「停滞」という判断は頭になかったようだが、では、どのような判断根拠、あるいは目算があってヒサゴ沼避難小屋を出発したのか、大いに疑問が残る。
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 明確な判断基準のないまま、「ひとまず出発してみよう」という決断に至ったと思われる。しかし、「ひとまず出発してみよう」という判断は、途中で引き返したり、別のコースに避難する可能性も含んだ判断である。それであるなら、夜明けとともにリーダーは若いスタッフを稜線のヒサゴ沼分岐辺りまで、空身で偵察に走らせるという方法もあったのではないか。それにより出発遅延の30 分という時間も、有効に使えたはずである。経験不足から思いつかなかったのかもしれないが、偵察によってかなり正確な判断材料が取得できたことであろう。いずれにしろ、スタッフ3 人の危機意識や情報の共有ができておらず、意思疎通も不十分だったことが窺える。
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 次に第2 のポイントは、稜線のヒサゴ沼分岐から天沼や日本庭園にかけての判断である。「ひとまず出発してみよう」と稜線に出たものの、カール状のヒサゴ沼と違ってまともに西風を受けるので、風雨の激しさは想像以上だったはずである。

 「どのような判断根拠、あるいは目算があってヒサゴ沼避難小屋を出発したのか、大いに疑問が残る」としているが、いったい「どのような判断根拠」を期待しているのだろう。ツアー企画会社や旅行団体などがマニュアルを整備していて「それにのっとって判断しなさい」としているならばともかく、現在は現場のガイド任せであり、ガイドが過去の経験から安全だと判断して、出発することになっているのだから、今回のツアーガイドも「過去の経験から安全だと思った」 以上の根拠はないだろう。
 山と渓谷2010年6月号には、同じ日に、大雪山(旭岳)を登山した記録がのっている。山渓スタッフとともに、登山未経験の女性が今回の遭難パーティーと同一コースを2日遅れで登山したものであるが、遭難した日には旭岳に登り、白雲岳避難小屋に入っている。旭岳とトムラウシは近いので、気象条件は類似しているが、山渓取材陣も登山を決行しているので、トムラウシ遭難パーティーが登山決行を判断したこと自体は、他のパーティー同様である。
 もし、トムラウシ山遭難事故調査報告書のように、『初めから停滞という判断』を期待するならば、『これこれの条件では登山を中止しなさい』と明記されたマニュアルを整備し、一般登山者も同様に規制すべきである。

 次に、トムラウシ山遭難事故調査報告書の「本遭難事故要因の検証と考察」の章は、だれが書いたのか明記されていないが、まじめな気持ちで書いたのだろうか。それとも、ガイドの責任であるとの結論を出すために、作文しただけなのだろうか。『「ひとまず出発してみよう」という決断に至ったと思われる』と書かれているが、このように思える根拠が示されていない。それなのに、『「ひとまず出発してみよう」という判断は、』以下の文章は、「ひとまず出発してみよう」と思ったことを前提にした記述となっており、「ひとまず出発してみようという決断」でなかったならば、まったく意味をなさない文章であり、事故報告書としては、ずさん極まりない記述になっている。


「トムラウシ山遭難事故調査報告書」には、ガイドの能力に対して、不思議な記述がある。
ガイド・スタッフの能力に関する問題
 それぞれのスタッフは登山歴やガイド歴はそれなりにあったと思うが、危急時における対応経験がどこまであったのか、また、危険予知能力(天候変化の予知能力、地図からの地形判断力、参加者の状況把握能力、時間経過の管理能力など)をどれほど持ち合わせていたのか、疑問が残る。
 危急時の対応訓練をどれだけしていたのか、この点は解明しなくてはならないが、「危険予知能力」とは、いったい何を言っているのだろう。天候変化を的確に予知するなど、超能力者でも無ければ、できないことである。
 「天気図を読む」「地図から地形を判断する」程度の一般的能力は必要であり、今回のガイドA,ガイドBの能力が欠如していたとは思えない。また、「参加者の状況把握」「時間経過の管理」を含めて、ある程度の能力が必要なことは言うまでもないが、ガイドAは社団法人日本山岳ガイド協会正会員団体マウンテンツアーガイドだったので、社団法人日本山岳ガイド協会が、よほどずさんなことをしていない限り、「天気図を読む」「地図から地形を判断する」「参加者の状況把握」「時間経過の管理」などの、一般的能力があった点は問題ないだろう。
 報告書の著者は疑問があるならば、社団法人日本山岳ガイド協会が、いかなる判断で正会員にしているのかを明記すべきでことである。
 気象遭難を『ガイドの予知能力の不足』などと、わけのわからない原因に求めてはならない。

後日、続きを書きます

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