菅の外交(永井陽之助)-日本は米軍のために消費税を増税すべきか ― 2010年06月13日
菅直人が総理大臣に就任し、所信表明演説が、先日金曜日に行われました。菅は若いころ、永井陽之助に外交理念を学んだと話しました。
当時、社会党の石橋政嗣が非武装中立論をとなえ、それを批判する論拠として、永井陽之助の「平和の代償論」がありました。永井は社会党の平和主義に反対しており、国際政治の原則は弱肉強食(パワーポリティックス)であると解き、日本は平和主義から脱却すべきであると解いていました。
ソ連が崩壊し、東西対立が消滅したとき「平和の配当」との言葉が使われましたが、永井の「平和の代償」を意識した表現だったのでしょう。永井の「平和の代償論」が正しいのならば、東西冷戦消滅後は「平和の配当」により、国際社会は豊かになるはずでした。実際は、そんな事はなく、もし、こんな古臭い理論を覚えているならば「平和の代償論」の誤りに多くの人は気づいたはずです。
菅が所信表明演説で、永井の「平和の代償」を名著としたのは、日米安保条約の負担を増やして、そのための増税を求める布石だろうか。
菅直人の所信表明演説に、何か危険なものを感じます。
私は若いころ、イデオロギーではなく、現実主義をベースに国際政治を論じ、「平和の代償」という名著を著された永井陽之助先生を中心に、勉強会を重ねてまいりました。わが国が、憲法の前文にあるように、「国際社会において、名誉ある地位を占め」るための外交とは、どうあるべきか。永井先生との議論を通じ、相手国に受動的に対応するだけでは外交は築かれないと学びました。この国をどういう国にしたいのか、時には自国のために代償を払う覚悟ができるのか。国民一人ひとりがこうした責任を自覚し、それを背景に行われるのが外交であると考えます。(所信表明演説から)永井陽之助は東京工業大学の教授で、学生のときにゼミか何かで学んだのだろうと思います。東京工業大学は理系の大学ですが、一般教養の講座がいくつかあって、永井陽之助は国際政治学の講座を持っていました。多くの学生は理学や工学に興味があって、文系科目は興味がなく、レポートで単位をとるだけだったので、永井教授と議論する学生は異色だったと思います。そういう時代だったのかもしれない。
当時、社会党の石橋政嗣が非武装中立論をとなえ、それを批判する論拠として、永井陽之助の「平和の代償論」がありました。永井は社会党の平和主義に反対しており、国際政治の原則は弱肉強食(パワーポリティックス)であると解き、日本は平和主義から脱却すべきであると解いていました。
ソ連が崩壊し、東西対立が消滅したとき「平和の配当」との言葉が使われましたが、永井の「平和の代償」を意識した表現だったのでしょう。永井の「平和の代償論」が正しいのならば、東西冷戦消滅後は「平和の配当」により、国際社会は豊かになるはずでした。実際は、そんな事はなく、もし、こんな古臭い理論を覚えているならば「平和の代償論」の誤りに多くの人は気づいたはずです。
菅が所信表明演説で、永井の「平和の代償」を名著としたのは、日米安保条約の負担を増やして、そのための増税を求める布石だろうか。
菅直人の所信表明演説に、何か危険なものを感じます。
南韓国はまともな国なのだろうか-捏造報道? ― 2010年06月15日
南韓国の軍艦が沈没事件で、南韓国政府は北朝鮮の魚雷攻撃だとして、国連安保理に北朝鮮への制裁を求めた件で、安保理非公開会合がおこなわれ、南韓国と北朝鮮が互いの主張をしました。
南韓国の主張は信憑性が怪しいので、現在ロシア政府は証拠を検討中です。
この問題とは関係なく、南韓国は北朝鮮のW杯報道にイチャモンを付けています。
読売新聞などによると、南韓国メディアは、北朝鮮のW杯放送に、言いがかりを付けているようです。
南韓国の主張は信憑性が怪しいので、現在ロシア政府は証拠を検討中です。
この問題とは関係なく、南韓国は北朝鮮のW杯報道にイチャモンを付けています。
読売新聞などによると、南韓国メディアは、北朝鮮のW杯放送に、言いがかりを付けているようです。
[読売新聞]聯合ニュースによると、北朝鮮の朝鮮中央テレビは13日までに、サッカー・ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会の開幕戦やアルゼンチン対ナイジェリアなど計3試合を録画放送した。北朝鮮がどの国のテレビ局の映像を使ったかは不明だが、朝鮮半島全域で放映権を持つ韓国のテレビ局SBSの関係者は、「(映像の)無断使用に該当する」と指摘している。(http://www.yomiuri.co.jp/wcup/2010/news/etc/news/20100613-OYT1T00594.htm)これに対して、北朝鮮のW杯放送は適法であるとの報道があります。
[ロイター]北朝鮮の朝鮮中央テレビが12日夜、放映権を持っていないサッカー・ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会の試合を無断で放映した。韓国メディアが13日伝えた。(ロイター http://jp.reuters.com/article/sportsNews/idJPJAPAN-15804820100614)
[AFP]韓国の聯合ニュース(Yonhap News)によると、北朝鮮の朝鮮中央テレビは12日、2010年サッカーW杯南アフリカ大会(2010 World Cup)の録画放送を無断で放送した。(http://www.afpbb.com/article/politics/2735767/5877368)
[毎日放送]北朝鮮がワールドカップサッカーを無断で放送していると一部で指摘されたことに対し、ABU=アジア太平洋放送連盟は、「北朝鮮の放送は適法に行われている」と指摘を否定しました。南韓国の報道は、何がなんだか分からない。
ABUのスポーツ担当者は、JNNの取材に対し、北朝鮮が試合を無断で放送していると韓国のテレビ局が指摘している事について、「正しくない。放送はFIFA=国際サッカー連盟との合意に基づき、適法に行われている」と答えました。(http://www.mbs.jp/news/jnn_4454047_zen.shtml)
南韓国を単純に信用してよいのでしょうか? ― 2010年06月16日
北朝鮮がW杯をテレビ放送したことにたいして、南韓国のメディアは、言いがかりを付けてました。
時事通信によると、米国務次官補クローリーは、南韓国の報道を真に受けて、北朝鮮を「テレビ信号を盗用しようとしている」と批判しました。しかし、アジア太平洋放送連合によると、北朝鮮はFIFAの合意に基づいて放送したものです。
「北朝鮮が言っているからきっと真実に違いない」と頭から信用する人はいないでしょう。南韓国は北朝鮮と同じ民族で、65年前までは同じような歴史を持った国で、両国は一応戦争状態にある国同士です。南韓国の言い分も、頭から信用に値するものではないでしょう。
ところで、米国務次官補クローリーは、南韓国艦沈没事件で、北朝鮮の主張に対して「徹底的な調査を行い、北朝鮮に責任があることを疑いの余地なく証明した」と反論、「何事もなかったかのようにはしない」と述べ、国際社会が協調して強い対応を取るべきだと訴えたそうです。(http://www.asahi.com/international/update/0616/TKY201006160140.html)
事実関係をまじめに調べもしないで、軽率に南韓国の報道を鵜呑みにして、北朝鮮を「テレビ信号を盗用しようとしている」と非難し、イイカゲンぶりを世界にさらしたクローリーの主張は、どれほど信じられるものなのでしょう。
誤解なきように追記します。
南韓国の説明は、そのまま信じて良いものか、理解に苦しむものがあります。「南韓国が言っているから真実なのだろう」と軽率に判断できるものではありません。もちろん、北朝鮮の主張は、かなり怪しいので、そのまま信じる人はあまりいないでしょう。
南が悪いからと言って北が正義というものではなく、逆に、北が悪いからと言って南が正義になるわけでもありません。南韓国と北朝鮮は同じ民族で、形式的にはお互いに戦争中なので、同じように疑ってかからないといけない。
時事通信によると、米国務次官補クローリーは、南韓国の報道を真に受けて、北朝鮮を「テレビ信号を盗用しようとしている」と批判しました。しかし、アジア太平洋放送連合によると、北朝鮮はFIFAの合意に基づいて放送したものです。
北朝鮮は「犯罪国家」=W杯の無断放映疑惑で米南韓国はそんなに信用が置ける国ではないのだから、米国も南韓国の言い分はとりあえず疑ってかかる必要があるのに。
【ワシントン時事】クローリー米国務次官補(広報担当)は15日の記者会見で、北朝鮮の朝鮮中央テレビがサッカーのワールドカップ(W杯)南アフリカ大会の試合を無断放映した疑いが報じられたことに関連し、北朝鮮を「犯罪国家」と非難した。
同次官補は無断放映の報道について、「これこそが北朝鮮の特徴だ」と断言。「周辺国と正常な関係を築いて、合法的な取引を始めることもできるのに、ワールドカップのテレビ信号を盗用しようとしている」と述べた。
北朝鮮で放映されたのは、11日の南アフリカ対メキシコ戦。朝鮮半島での放映権を持つ韓国SBSテレビは、許可なく放映したと主張した。
しかし、AFP通信によると、アジア太平洋放送連合(本部クアラルンプール)は、北朝鮮が同連合と国際サッカー連盟(FIFA)の合意に基づき映像を流しているとして、疑惑を否定した。(2010/06/16-08:55 時事.com)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2010061600142
「北朝鮮が言っているからきっと真実に違いない」と頭から信用する人はいないでしょう。南韓国は北朝鮮と同じ民族で、65年前までは同じような歴史を持った国で、両国は一応戦争状態にある国同士です。南韓国の言い分も、頭から信用に値するものではないでしょう。
ところで、米国務次官補クローリーは、南韓国艦沈没事件で、北朝鮮の主張に対して「徹底的な調査を行い、北朝鮮に責任があることを疑いの余地なく証明した」と反論、「何事もなかったかのようにはしない」と述べ、国際社会が協調して強い対応を取るべきだと訴えたそうです。(http://www.asahi.com/international/update/0616/TKY201006160140.html)
事実関係をまじめに調べもしないで、軽率に南韓国の報道を鵜呑みにして、北朝鮮を「テレビ信号を盗用しようとしている」と非難し、イイカゲンぶりを世界にさらしたクローリーの主張は、どれほど信じられるものなのでしょう。
誤解なきように追記します。
南韓国の説明は、そのまま信じて良いものか、理解に苦しむものがあります。「南韓国が言っているから真実なのだろう」と軽率に判断できるものではありません。もちろん、北朝鮮の主張は、かなり怪しいので、そのまま信じる人はあまりいないでしょう。
南が悪いからと言って北が正義というものではなく、逆に、北が悪いからと言って南が正義になるわけでもありません。南韓国と北朝鮮は同じ民族で、形式的にはお互いに戦争中なので、同じように疑ってかからないといけない。
南韓国軍艦沈没事件-両国の言い分を検証すべきです ― 2010年06月17日
南韓国の軍艦が沈没した事件で、南韓国政府は北朝鮮の魚雷攻撃が原因であると主張しています。北朝鮮は事実無根と反論していますが、どちらの説明も怪しい。
こうした中、ロシアは専門家を南韓国に派遣して、証拠を検証しています。Voice of Russiaによると、あと2~3週間で結論が出るようです。どちらの言い分を支持するにせよ、証拠を検証すべきで、日本のように南韓国の言い分を頭から信用する態度は良くない。
南韓国の一番良くないところは、自信があるならば証拠を北朝鮮に突き付ければよいのに、北朝鮮の調査団の受け入れを拒絶しています。また、魚雷の一部にあるハングルで書かれた文字は爆発で蒸発するはずと、北朝鮮は主張しています。こんなの、インクの成分を分析すれば、魚雷の爆発で蒸発するか残るのかわかるはずなのに、南韓国はいまだにインクの成分分析をしていないようです。
また、南韓国の民間団体の中にも、南韓国政府の言い分に疑問の声があります。
南韓国政府は十分な証拠を持っていないのか、それとも隠しているのか、分からないけれど、いずれにしても、南韓国政府の言い分だけを信じるのは誤った態度です。
ところで、Voice of Russiaによると、ロシアのイワノフ副首相(軍産複合体担当)は15日、南韓国軍艦の沈没に関して、「まずは国連支援の下で黄海上に境界線を引くこと、そうすれば再発防止を促すような責任分担の枠組みを始動できる」と述べ、原因となる国境線の未確定から解決すべきとの認識を示したそうです。
今回問題となっている海域は、南韓国と北朝鮮の主張が異なり、国境未確定海域なので、今後も何らかの軍事衝突の可能性があります。国境を画定する必要があります。でも、南韓国は受け入れないだろうなー。
こうした中、ロシアは専門家を南韓国に派遣して、証拠を検証しています。Voice of Russiaによると、あと2~3週間で結論が出るようです。どちらの言い分を支持するにせよ、証拠を検証すべきで、日本のように南韓国の言い分を頭から信用する態度は良くない。
南韓国の一番良くないところは、自信があるならば証拠を北朝鮮に突き付ければよいのに、北朝鮮の調査団の受け入れを拒絶しています。また、魚雷の一部にあるハングルで書かれた文字は爆発で蒸発するはずと、北朝鮮は主張しています。こんなの、インクの成分を分析すれば、魚雷の爆発で蒸発するか残るのかわかるはずなのに、南韓国はいまだにインクの成分分析をしていないようです。
また、南韓国の民間団体の中にも、南韓国政府の言い分に疑問の声があります。
南韓国政府は十分な証拠を持っていないのか、それとも隠しているのか、分からないけれど、いずれにしても、南韓国政府の言い分だけを信じるのは誤った態度です。
ところで、Voice of Russiaによると、ロシアのイワノフ副首相(軍産複合体担当)は15日、南韓国軍艦の沈没に関して、「まずは国連支援の下で黄海上に境界線を引くこと、そうすれば再発防止を促すような責任分担の枠組みを始動できる」と述べ、原因となる国境線の未確定から解決すべきとの認識を示したそうです。
今回問題となっている海域は、南韓国と北朝鮮の主張が異なり、国境未確定海域なので、今後も何らかの軍事衝突の可能性があります。国境を画定する必要があります。でも、南韓国は受け入れないだろうなー。
6月19日 ― 2010年06月19日
改正日米安保条約50年です。
ソ連を仮想敵国とした安保条約でしたが、すでに、ソ連はない。
ソ連を仮想敵国とした安保条約でしたが、すでに、ソ連はない。
アイヌは犬であって人間ではない ― 2010年06月22日
イザベラ・バード/著 高梨健吉/訳 『日本奥地紀行』(東洋文庫240)読みました。
終りのほうの1/4は、北海道旅行記で、アイヌの様子が詳しく書かれています。著者の従者を務めた伊藤はアイヌを見下していて、アイヌは犬であって人間ではない、と言っていたことが記されています。当時の日本人の普通の感覚だったのでしょう。
第35信の終わりのほうに、次の記述があります。
北方領土問題で、日本の固有の領土であると、日本政府は主張しています。あの地域は、もともとアイヌの居住地で、日本人(和人)が住むようになったのは、一部を除き明治以降です。アイヌが人間の一種ならば、アイヌを無視して「日本人の固有の領土」「父祖伝来の地」などと言えたものではありません。しかし、平然と固有の領土というのは、アイヌは領有権が主張できる人間ではないとの感覚が残っているのでしょう。
終りのほうの1/4は、北海道旅行記で、アイヌの様子が詳しく書かれています。著者の従者を務めた伊藤はアイヌを見下していて、アイヌは犬であって人間ではない、と言っていたことが記されています。当時の日本人の普通の感覚だったのでしょう。
第35信の終わりのほうに、次の記述があります。
私はシーボルト氏に、これからもてなしを受けるアイヌ人に対して親切に優しくすることがいかに大切かを伊藤に日本語で話してほしい、と頼んだ。伊藤はそれを聞いてたいそう憤慨していった。「アイヌ人を丁寧に扱うなんて!彼らはただの犬です。人間ではありません。」
北方領土問題で、日本の固有の領土であると、日本政府は主張しています。あの地域は、もともとアイヌの居住地で、日本人(和人)が住むようになったのは、一部を除き明治以降です。アイヌが人間の一種ならば、アイヌを無視して「日本人の固有の領土」「父祖伝来の地」などと言えたものではありません。しかし、平然と固有の領土というのは、アイヌは領有権が主張できる人間ではないとの感覚が残っているのでしょう。
参議院選 ― 2010年06月24日
参議院選がはじまります。
菅内閣は予算委員会で論戦することなく選挙に突入。論戦しないで高支持率を背景に、なんとか勝利しようとの戦略なのでしょうけれど。普通は、論戦して、自らの良さをアピールした後に選挙に突入するので、菅内閣の戦略は異様です。論戦すると支持が減ると思っているのかなー。
ワールドカップサッカーは予選最終戦のデンマーク戦です。この試合、日本は引き分けでも、予選突破だけれど、岡田監督は勝つことしか考えていないと言っていました。勝ちにいかなくては引き分けはできないだろう。
菅内閣は予算委員会で論戦することなく選挙に突入。論戦しないで高支持率を背景に、なんとか勝利しようとの戦略なのでしょうけれど。普通は、論戦して、自らの良さをアピールした後に選挙に突入するので、菅内閣の戦略は異様です。論戦すると支持が減ると思っているのかなー。
ワールドカップサッカーは予選最終戦のデンマーク戦です。この試合、日本は引き分けでも、予選突破だけれど、岡田監督は勝つことしか考えていないと言っていました。勝ちにいかなくては引き分けはできないだろう。
夏山シーズン ― 2010年06月25日
梅雨はあけていないけれど、暑くなってきました。もうすぐ夏山シーズンです。
6月上旬の各紙は、昨年の山岳遭難が過去最高だったと伝えています。 発生件数1676件、遭難者数2085人、死者・不明者317人。
40歳以上の中高年者の割合が、最近は遭難者の8割、死者・行方不明者の9割を占めており、中高年登山者の対策が急務になっています。
昨年、最も衝撃的だった遭難は、7月16日のトムラウシ中高年ツアー登山の大量遭難でした。悪天候の中、次々と低体温症を発症し凍死したものです。ただし、その後の検証で、当時の気象状況は、大雪山では例年起きているもので、決して特異な現象ではないことが確認されています。
6月上旬の各紙は、昨年の山岳遭難が過去最高だったと伝えています。 発生件数1676件、遭難者数2085人、死者・不明者317人。
40歳以上の中高年者の割合が、最近は遭難者の8割、死者・行方不明者の9割を占めており、中高年登山者の対策が急務になっています。
昨年、最も衝撃的だった遭難は、7月16日のトムラウシ中高年ツアー登山の大量遭難でした。悪天候の中、次々と低体温症を発症し凍死したものです。ただし、その後の検証で、当時の気象状況は、大雪山では例年起きているもので、決して特異な現象ではないことが確認されています。
トムラウシ遭難考(9)―トムラウシ山遭難事故調査報告書 ― 2010年06月30日
2009年7月16日、トムラウシ中高年ツアー登山の大量遭難があった。悪天候の中、次々と低体温症を発症し凍死した。この件について、事故後から11月ごろまで、このBlogでもいろいろと書いてきたが、登山メンバーに対して辛口の評価となっている。
昨年11月のBlogでは、ガイド協会調査委の中間報告を良く読んだ上で、もう一度考えてみようと思うと書いた。(http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2009/11/04/4675426)
今年の3月初めに最終報告書が公開されている(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf)。文章も内容も不十分な点はあるが、事故の経緯・低体温症・気象状況を詳細にまとめ、さらに、今後の提言まで含まれた、豊富な内容になっている。最終報告書が出てからすでに4カ月経過し、報告書に対しても多くの意見がある。
トムラウシ遭難の死亡原因は低体温症による凍死だった。当初、悪天候下、登山を強行し、多くの登山客が全身ずぶぬれになったために低体温症になったかのような報道がなされた。
私には疑問でならなかった点がいくつもあった。
「①どの程度の悪天候だったのだろうか」
「②当日登山を決定したガイドの判断は誤りであると断言できるのだろうか」
「③まともなレインウエアーで下着までずぶぬれになるのだろうか」
「④低体温症の原因は何か」
「⑤ビバーク地点が2つになったのはなぜか」
「⑥登山者は全員が人命救助を優先したのだろうか?」
さらに、「⑦危機に遭遇した時登山者はどのような態度をとるべきか」という点が気になった。
報告書をみると、明らかにされたことがいくつかある。
①どの程度の悪天候だったのだろうか
トムラウシ山遭難事故調査報告書のP80~P88に遭難発生時の気象について詳しく書かれている。
『7月16日のトムラウシ山の気象は、大雪山では例年起きている気象状況であり、決して特異な現象ではない。また、同様の気象状況は、北アルプスの稜線付近でも起きていることが確認された。』
③まともなレインウエアーで下着までずぶぬれになるのだろうか
女性客Hさんは、低体温症になって南沼でビバークし無事生還したが、Hさんによると雨具を通しての濡れはなかったとの証言している(トムラウシ山遭難事故調査報告書P54) 。このため、レインウエアーの性能に問題はなく、多くの人が下着までずぶぬれになったわけではない。
②当日登山を決定したガイドの判断は誤りであると断言できるのだろうか
報告書では、判断の誤りとしているが、理由は良く分からない。
④低体温症の原因は何か
報告書では低温と強風としているようだが、詳しく解明していない。
なお、報告書には、同じ日に同じコースを歩いた伊豆山岳会の証言が記載されている。
『トムラウシ分岐付近よりメンバーのA(67歳、女性)さんがよろよろし出し、足がふらついてまっすぐ歩けず、仲間の問いに対する返答がなくなった。…仲間が差し出したお湯を5杯飲んだ。この時、ザックからダウンジャケットを出して雨具の下に重ね着した。』
ザックにダウンジャケットがあったのに、それを着ないでいたら低体温症になっているようである。低体温症になる前に着なかった理由は記されていない。
着るものがなかったとか、あったけれど濡れてしまったとか、そういうことが原因ならば、装備不良・装備ミスとも言えるし、気温が低かったためだともいえるだろう。でも、防寒具を持っていたにもかかわらず、使わなかったために低体温になったのだとしたら、装備の問題でも気温の問題でも無く、別な原因ではないか。
⑤⑥⑦について、報告書には明確な記述はない。
後日、続きを書きます
昨年11月のBlogでは、ガイド協会調査委の中間報告を良く読んだ上で、もう一度考えてみようと思うと書いた。(http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2009/11/04/4675426)
今年の3月初めに最終報告書が公開されている(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf)。文章も内容も不十分な点はあるが、事故の経緯・低体温症・気象状況を詳細にまとめ、さらに、今後の提言まで含まれた、豊富な内容になっている。最終報告書が出てからすでに4カ月経過し、報告書に対しても多くの意見がある。
トムラウシ遭難の死亡原因は低体温症による凍死だった。当初、悪天候下、登山を強行し、多くの登山客が全身ずぶぬれになったために低体温症になったかのような報道がなされた。
私には疑問でならなかった点がいくつもあった。
「①どの程度の悪天候だったのだろうか」
「②当日登山を決定したガイドの判断は誤りであると断言できるのだろうか」
「③まともなレインウエアーで下着までずぶぬれになるのだろうか」
「④低体温症の原因は何か」
「⑤ビバーク地点が2つになったのはなぜか」
「⑥登山者は全員が人命救助を優先したのだろうか?」
さらに、「⑦危機に遭遇した時登山者はどのような態度をとるべきか」という点が気になった。
報告書をみると、明らかにされたことがいくつかある。
①どの程度の悪天候だったのだろうか
トムラウシ山遭難事故調査報告書のP80~P88に遭難発生時の気象について詳しく書かれている。
『7月16日のトムラウシ山の気象は、大雪山では例年起きている気象状況であり、決して特異な現象ではない。また、同様の気象状況は、北アルプスの稜線付近でも起きていることが確認された。』
③まともなレインウエアーで下着までずぶぬれになるのだろうか
女性客Hさんは、低体温症になって南沼でビバークし無事生還したが、Hさんによると雨具を通しての濡れはなかったとの証言している(トムラウシ山遭難事故調査報告書P54) 。このため、レインウエアーの性能に問題はなく、多くの人が下着までずぶぬれになったわけではない。
②当日登山を決定したガイドの判断は誤りであると断言できるのだろうか
報告書では、判断の誤りとしているが、理由は良く分からない。
④低体温症の原因は何か
報告書では低温と強風としているようだが、詳しく解明していない。
なお、報告書には、同じ日に同じコースを歩いた伊豆山岳会の証言が記載されている。
『トムラウシ分岐付近よりメンバーのA(67歳、女性)さんがよろよろし出し、足がふらついてまっすぐ歩けず、仲間の問いに対する返答がなくなった。…仲間が差し出したお湯を5杯飲んだ。この時、ザックからダウンジャケットを出して雨具の下に重ね着した。』
ザックにダウンジャケットがあったのに、それを着ないでいたら低体温症になっているようである。低体温症になる前に着なかった理由は記されていない。
着るものがなかったとか、あったけれど濡れてしまったとか、そういうことが原因ならば、装備不良・装備ミスとも言えるし、気温が低かったためだともいえるだろう。でも、防寒具を持っていたにもかかわらず、使わなかったために低体温になったのだとしたら、装備の問題でも気温の問題でも無く、別な原因ではないか。
⑤⑥⑦について、報告書には明確な記述はない。
後日、続きを書きます
トムラウシ遭難考(10)-気象条件 ― 2010年06月30日
2009年7月16日、トムラウシ中高年ツアー登山の大量遭難があった。悪天候の中、次々と低体温症を発症し凍死した。今年の3月初めにトムラウシ山遭難事故調査報告書が公開されている(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf)。
P80~P88に遭難発生時の気象について詳しく書かれている。ここでは、「聞き取り調査からの推測」「周辺気象官署観測値よりの推測」「大雪山・五色観測サイトにおける気象観測からの推測」が行われ、以下の結論を得ている。
『7月16日のトムラウシ山の気象は、大雪山では例年起きている気象状況であり、決して特異な現象ではない。また、同様の気象状況は、北アルプスの稜線付近でも起きていることが確認された。』
『7月16日のトムラウシ山の気象は、大雪山では例年起きている気象状況であり、決して特異な現象ではない。また、同様の気象状況は、北アルプスの稜線付近でも起きていることが確認された。』
札幌上空800hPaにおける気象データは、標高2000mに相当し、トムラウシの気象条件を推定するために便利であり、公開データはExcelに容易に取り込めるので、2008年7,8月と2009年7,8月の温度・風速をグラフにした。
下のグラフは、2008年、2009年の温度変化。トムラウシ遭難の時の温度を矢印で示している。前日よりもずいぶん低温ではあるが、決して特異な低温ではない。(画像をクリックすると拡大します。)
下のグラフは、2008年、2009年の温度変化。トムラウシ遭難の時の温度を矢印で示している。前日よりもずいぶん低温ではあるが、決して特異な低温ではない。(画像をクリックすると拡大します。)
下のグラフは、2008年、2009年の風速変化。トムラウシ遭難の時の風速を矢印で示している。かなりの強風であることが分かる。「ひと夏に数日しかないほどの強風」というのか、「ひと夏に数日程度はある」と考えるのか、人によりけりでしょう。なお、グラフには描かなかったが、秋から春にかけて、連日、さらに強風の日が続くことは珍しくない。(画像をクリックすると拡大します。)
トムラウシの遭難は悪い気象条件で起こったことは確かだけれど、どの程度悪い気象条件だったのかということは、グラフをみると、だいたい推測がつくでしょう。
2009年7月、2008年7月の風速では、トムラウシ遭難が起こった2009年7月16日の風速はずいぶん大きかったように感じられる。しかし、年によっては、もっと風が強いこともあるので、トムラウシ遭難のときが特別に風が強かったわけではない。参考のために、2009年7月と2000年7月の札幌上空800hPa(2000m程度の高度に相当)の風速の比較図を記す。矢印のところがトムラウシ遭難当日を表している。
2009年7月、2008年7月の風速では、トムラウシ遭難が起こった2009年7月16日の風速はずいぶん大きかったように感じられる。しかし、年によっては、もっと風が強いこともあるので、トムラウシ遭難のときが特別に風が強かったわけではない。参考のために、2009年7月と2000年7月の札幌上空800hPa(2000m程度の高度に相当)の風速の比較図を記す。矢印のところがトムラウシ遭難当日を表している。