トムラウシ山遭難考(12)―体感温度2010年07月02日

 気温がそれほど低くなくても、風が強い時は、結構寒く感じることがある。風の影響を考慮して、体感温度を求めるときは、風速1m/sあたり気温-1℃で換算する、簡易的な手法がつかわれることが多い。
 しかし、セーターのような風を通しやすい素材と、ウインドブレーカーのような風を通しにくいものを着ている場合とでは、風による体感温度はずいぶん異なってくる。風を通しやすい着衣の場合は、風速1m/sあたり気温-1℃換算で大きな違いはないような気もするが、ウインドブレーカー・レインウエアーなど耐風性着衣の場合は風速2~3m/sあたり気温-1℃程度のようなに感じる。


 昨年7月16日に、北海道大雪山系トムラウシ山で、中高年ツアー登山パーティーの大量遭難事故があった。夏としては低温で強風という気象条件の中で、低体温症を発症して凍死したものである。事故当時には、豪雨の中、全員が下着までずぶぬれになったとの報道もなされた。その後の検証では、土砂降りのような雨ではなく、衣服がびしょ濡れになったという人は多くなかったことが確認されている。
 当時、風は強かったので、これが低体温症の発症に関係していることは間違いない。では、当時の寒さを予想するために、風速1m/sあたり気温-1℃換算の簡易的手法で良いのだろうか。

 事故後、ガイド業や事故関係者とは利害関係のない第三者で構成する「トムラウシ山遭難事故調査特別委員会」が設置され、今年3月に「トムラウシ山遭難事故調査報告書」が公開された。この中には、体感温度に関連して、いくつかの記述がある。
対流:
 風によって体温を下げる現象。外気温が10 ℃であっても、風速10 m /sec では体感温度は0℃になっている。(P49)
 ヒサゴ沼より稜線に出た時から雨と風が強く、行動に支障を来す。気温6 ℃、風速15 m/sec では、体感温度がマイナス10 ℃になる。(P51)
 上の2つは、風速1m/sあたり、気温-1℃で換算する、簡易的な方法で、低体温症を予想しようとしている。しかし、気象条件の詳しい解説の部分では、体感温度についても、より深い説明がなされている。
 気温が同じであっても、風がある時の方がより冷たく感じる。この現象について、登山界では昔から、風速1 mにつき体感温度は約1 ℃下がるという表現がよく用いられてきた。表1 はその元となったデータである。この表で、今回の遭難時の気象条件に近いところを見てみると、気温が4 .4 ℃で風速15 .6 mの時には体感温度がマイナス11 .7 ℃となっており、非常に低いことがわかる。
 ただし、表1 のようなデータはもともと、南極において、さまざまな気温や風速の時に水が何分で凍るか、という実験から得られたものである。したがって、風速1 mについて約1 ℃体感温度が下がるといったことは、裸体の状態での話と考えるべきである。
 いっぽう実際の山では、風雨の際には、衣類を着た上に雨具を着る。したがって、気温が5 ℃で風速15 mの時に体感温度がマイナス10 ℃になるかといえば、必ずしもそうではない。つまり、気温と風速に加えて、衣類による防風・防寒の効果を加味した上で体感温度を考える必要がある。(P65)
 寒風吹きすさぶ登山の最中に全裸になる人はいないので、風速1m/sあたり気温-1℃換算の簡易的な手法は、誤差が大きすぎるだろう。

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