トムラウシ山遭難考(21)-まとめ12010年07月20日

 2009年7月16日、トムラウシ山で高齢者ツアー登山の大量遭難事故があった。登山客15人、ツアースタッフ3人のパーティーのうち8人が低体温症で凍死した未曽有の大惨事だった。

 行動途中に、歩けなくなった人が出たら、ガイド1人とともにそこに残して、他のものはそのまま行動。このくりかえしで3人のガイドがいなくなると、他のものは、歩けなくなったものを残して、先に進む。多数の死者を出しながら、生存者が、三々五々、下山してくるのが不思議でならなかった。

 事故当時、次のようなことが言われた。
 『ガイドらの携帯電話が通じる状態だったにもかかわらず、救助要請がないままツアーが続行されていた』
 『防風雨の中、登山を強行した』
 『全員が下着までずぶ濡れになった』
 『当時は、体感温度マイナス15度だった』

 これらの情報は、常識と反しており、かなり怪しいと思ったが、その後の調べで、以下のことが明らかになっている。
 ①携帯電話は圏外で通じなかった。
 ②当時の天候は強風・少雨で、この山域や北アルプスなどでは、特に珍いものではなかった。
 ③全員が下着までずぶ濡れになった事実はなく、低体温症になり、その後生還した者は濡れていなかったこと証言している。

 トムラウシ山遭難事故調査特別委員会よる「トムラウシ山遭難事故調査報告書」が、今年の3月初めに作成・公開されている(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf) 。この報告書によれば、”体感温度マイナス15度”とは、裸体のときの状況であって、実際に着衣がある場合はこれとは異なる事が分かる。しかし、報告書には、実際の着衣をもとに、どの程度の体感温度になっていたのかの検討はなされていない。
 このため、本Blogでは、簡易モデルを使って、着衣がある場合の体感温度の検討をした。(http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2010/07/08/5205609 )
 その結果、『当時の気温、通常の風速(5m/sec)で低体温症にならないような十分な着衣をしていれば、強風(20m/sec)でも1時間程度で低体温症になることはないが、着衣不良・着衣不十分の場合、強風は低体温症の決定的要因になる』ことを確認した。すなわち、強風が低体温症の主要因との判断は誤りであり、着衣との関連が重要であることを確認した。

 本遭難における低体温症の原因は以下の3つの複合要因と思われる。
 a)気象条件 b)不十分な着衣 c)登山技術・体力の問題
ただし、遭難者の実際の装備・着衣が明らかになっていないので、詳しいことは分からない。 

 遭難当時のトムラウシ山と同様な気象条件は、北アルプスや富士山でも、ひと夏に数日は起こっているはずであるが、多くの登山者は問題なく登山している。しかし、一部には装備不良や技術・体力不足の登山者もいると思われる。こういう人も、北アルプスや富士山では山小屋が多いので、遭難に至らずに済んでいるのだろう。


注意)遭難当時のトムラウシ山の気候は、北アルプスや富士山の夏でもそれほど珍しい気候ではないけれど、平地の夏ではありえない寒さです。東京の真冬の一番寒い時に匹敵するほどなので、夏の低山や好天の北アルプスをイメージしていたら、とんでもないことになります。


以下、続きを後日書きます

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