低レベル放射線被曝と発癌率の関係2011年05月12日

LNT、しきい値、ホルミシス:
 低レベル放射線被曝と発癌率の関係について、「LNTモデル」「しきい値モデル」「ホルミシスモデル」の3種があります。放射線量と発癌率の関係を模式的に書くと図のようになります。


20mSvの発癌率:
 
 放射線による発癌率は、広島・長崎の経験から100mSvで0.5%とされています。100mSv以下の低線量の場合の発癌率はデータが少なくて分からない。このような場合、一番簡単な方法としてLNTモデルが使われます。「分からないのだから、直線で結んでしまえ」簡単にいえばそういうことです。LNTモデルでは、安全な線量は存在しないことを前提としています。
 
 LNTモデルは、計算が簡単で嬉しいのですが、「これだけなら安全」と言う線量が無くなってしまい、放射能汚染をまき散らす側にとっては、都合が悪い。「しきい値説」は、「これだけなら安全とする線量があって、そこから先は直線で結ぶ」ものです。さらに、「多少被爆したほうが体に良いのだ」と低線量被曝を奨励する説が、「ホルミシス」です。
 
 被曝線量と発癌率の関係を模式的に書くと、図のようになります。どの線も、0mSvでは発癌率0%、100mSvでは発癌率0.5%なので、3つの線の最初と最後は同じところを通ります。 
 現在、安全な線量-しきい値-があるとの説と、そのような線量は無いとする説の両方があります。
 
 政府は、福島県の学校児童・生徒の年間被爆許容線量を20mSvとしましたが、これには批判が強いようです。10歳の子供が、年間20mSvを3年間被爆した時の1年当たりの発癌率を計算してみます。10歳の子供の被曝による発癌率は成人の4倍とします。
 
 「LNTモデル」の場合は、0.4%です。
 
 「しきい値説」では、しきい値が幾つなのか決めないといけませんが、現在、そのような値は知られていません。ここでは、簡単のため50mSvと仮定して計算します。LNTモデル以外では、これまでの被曝線量が必要です。年平均2.5mSv被曝しているとすると、10歳の子供は25mSv被曝しています。さらに、今回の福島原発事故で、内・外部被爆合わせて10mSv被曝したとすると、すでに35mSv被曝しています。年20mSvを3年被曝すると35+20×3=95mSvとなります。この時の発癌率は、1.8%。年20mSvの被曝がなければ、発癌率はゼロなので、増加率は1.8%。
 これは3年の値なので、1年平均すると、0.6%になります。
 
 「ホルミシス説」では、どうなるのか。この説は、被曝線量と発癌率の関係を曲線で結びます。このため、計算するためには曲線の関数形を決めなくてはならないのですが、関数形を提示した人はいないと思います。上記「しきい値説」の発癌率を0.6%と計算したのと同様な条件を設定すれば、「ホルミシス説」では、発癌確率はさらに大きくなるでしょう。
 
 「しきい値説」「ホルミシス説」は、汚染を排出する側が安全性をアピールするために使われます。それなのに、上記計算では、逆に危険性をより強調するものになっています。「しきい値説」「ホルミシス説」では、低線量の安全性を主張するために、100mSv近辺の線量の危険性を高めており、今回の原発事故のように、放射能汚染が大きい場合は、かえって、危険性を強調することになります。
 
 この計算は、別の見方もできます。
 「しきい値説」「ホルミシス説」が正しいならば、「安全な放射線レベル」があるのことになります。私たちは、自然の放射線を避けることはできないし、医療目的のような有益な被曝も必要です。「安全な放射線レベル」は、避けられない被曝や有益な被爆のために使うべきであって、避けられる不要な被曝は避けるべきなのです。

コメント

_ 加藤 富士男 ― 2011年07月11日 21時57分09秒

非常に分かりやすい説明と思います。初歩的な質問ですが、恐縮ですが教えてください。
(1)100mSvでは発癌率0.5%増加、と言う事は他の病気の罹患率は0.5%減少と言うことでしょうか?
(2)或いは0.5%増加のぶんだけ、平均寿命短縮と言うことでしょうか?

_ cccpcamera ― 2011年07月12日 08時57分49秒

発癌率が0.5%上昇しても、小さい数値なので、他の死因に影響が現れるような統計を取ることは困難だと思います。
しかし、死因の合計は100%に決まっているので、一般論から言えば、他の死因が減るのでしょう。

もし、子どもが、被曝し発癌して死に至るのだとしたら、平均寿命が低下し、長寿者が減るので、老衰や老人病の割合は減るはずです。
しかし、高齢者が被曝して、そのために発癌率が多少上がっても、それほど大きな違いはないかもしれません。

日本人は長寿者が多く、発癌率が高いので、発癌率が0.5%程度増えたところで、ほとんど違いはないと主張する人もいますが、10代で癌になるのと80過ぎてから癌になるのとでは、本人の生涯の幸福には大きな違いがあるので、若年者の被曝は、重大です。

_ ニュースいちばん ― 2011年10月21日 12時18分05秒

こんにちはわかりやすい説明ありがとうございます。
2011年10月18日(火)の朝刊に政府は不安を助長するだけの情報しか出さず、どのようにすれば低レベル放射線の害を軽減することができるか、この情報が住民にとっていちばん必要だと思うという記事がありました。
記事を書かれたのは毎日新聞生活報道部 田村佳子記者です。
重要な視点と思います。。
私を長年治療していただいた故柴田良治先生は漢方治療の大家であり放射線医で、広島で被爆されました。
確定的影響と確率的影響の2種類があります。
前者は高レベルで、後者は低レベルの問題です。
先生は自律神経の安定は放射線の害を軽減できると考えておられました。
食事を精進料理、玄米食、昆布、などを常食されていました。。
先生は40歳くらいまでしか生きられないと考えられていましたが上記の食事をされて実際は73歳まで生きられました。
その考えを裏付けるように新潟大学の免疫学の権威、安部徹先生が最近の著書で食べ物で自律神経を安定させることによって
癌の予防効果があると書かれています。
高レベルでも効果が認められるので当然低レベルでも効果があるのは間違いないと思います。
LNT、しきい値、ホルミシスがありますが、人間の身体には防護機能が備わっていると思います。
その機能には個人差があるのかも知れません。
上記の内容からLNT説は成立しないと考えられます。
ホルミシス効果についても放射性泉が病気を治したりできるので存在すると思います。
しきい値があるのかないのか私にはわかりません。
結論として自律神経を安定されることは重要です。
放射能を侮ってはいけませんが生物のDNAのなかには防護の機能があると思います。

故柴田先生関連サイト
http://jugendo.co.jp/jugendo/sibata.html

安部徹先生関連サイト
http://www.hotkindly.com/menekiryoku.html

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