内部被曝と外部被曝2011年06月16日

 被曝には、外部被曝と内部被曝があって、内部被曝の方が健康被害が大きいと言う人がいます。一方、放射線被曝限度の基準は、シーベルトで定められているため、たとえば、外部被曝100mSvと内部被曝100mSvとでは、国の安全基準上では同じ扱いになります。
 内部被曝は摂取した放射性物質の量できまり、外部被曝は受けた放射線の量です。このため、内部被曝の場合は放射性核種ごとのベクレルの値であり、外部被曝の場合は放射線種ごとのグレイの値です。ベクレルやグレイはシーベルトに換算します。グレイとシーベルトは、ほぼ同じですが、ベクレルをシーベルトに換算するためには、核種ごとに異なった値を使います。たとえば、セシウム137は1ベクレル0.013マイクロシーベルト、ヨウ素131は0.022マイクロシーベルト、などが、使われます。
 もし、内部被曝と外部被曝の健康被害が異なるのだとしたら、通常使われているベクレル・シーベルトの換算が、正しくないのではないだろうか。通常使われる、セシウム137は1ベクレル0.013マイクロシーベルトなどの換算値は、どのようにして求めたのでしょう。生体への影響は考慮しないで、単に、物理的に求めたのでしょうか、それとも、発癌率等を動物実験でもとめて、生体への影響を正しく反映した値なのでしょうか。
 換算値は被曝の基準に使われる重要な値です。もし、この値が、単に物理的に求めたものならば、内部被曝の安全基準など、ほとんど無意味な値ではないかと思います。
 どなた様か、ベクレル・シーベルトの換算は、具体的に、どの数値を使って、どのようにして求めたものなのか、ご存知でしたら教えてください。


と、書いても、誰も教えてくれないだろうから、自分で考えてみました。健康被害を判断するには、妥当とは言えない方法、すなわち、単に物理的に求めました。

Cs137について、以下の事実が知られている。

 Cs137は、半減期30年、0.512Mevでβ崩壊して、Ba137mになる。また、Ba137mは、半減期2.6分、0.662Mevでγ崩壊して、安定なBa137になる。
 生体がCsを取り込むと、代射により減少するので、Cs137の生体内での半減期は70日~120日程度とされている。

ここで、いくつかの条件を置いて、1BqのCs137がどれくらいの線量に相当するのか、計算する。

 1BqのCs137の崩壊エネルギーを0.512Mevとし、Ba137mのγ崩壊を無視する。また、Cs137の吸収率を100%、生体内での半減期を90日(7.8E6sec)とする。人間の体重を70kgとし、Cs137は生体に均一に分布するものとする。この条件で、1BqのCs137を摂取した時の被曝線量を計算する。

①1BqのCs137の崩壊エネルギー 0.512Mev/s=8.2E-14J/s
②生体内でのCs137のエネルギーを I(t) とすると、
  I(t)=I0×exp(-t/α) 
  (ただし、α=半減期÷log2、I0は初期エネルギー) 
となるので、生体が受けるエネルギーの積算は次式となる。
 E=∫I(t)dt=I0×α=8.2E-14×7.8E6÷log2=9.2E-7 J
  (人が生きる時間は90日よりも十分に長いとした。) 
③体重1kg当たりのエネルギーは次式となる
 9.2E-7÷70=1.3E-8 Sv=0.013μSv

以上より、1BqのCs137の内部被曝は、0.013μSv となる。


上記計算では、『Ba137mのγ崩壊を無視、Cs137の吸収率を100%』と現実離れした条件を仮定した。『Ba137mのγ崩壊を100%取り入れ、Cs137の吸収率を43%』としても、0.013μSv となる。さらに、『Ba137mのγ崩壊を77%取り入れ、Cs137の吸収率を50%』としても、0.013μSv となる。

 『吸収率33%、Csのβ崩壊・Baのγ崩壊を100%考慮し、かつ、生体内の半減期を110日、体重を65kg』とすると、同じく、0.013μSv となる。
 
 
追記:
 このように計算すると、1BqのCs137の内部被曝を、0.013μSv とする換算は、正当のような気がするでしょう。しかし、良く考えてみると、おかしな仮定をして、内部被曝の影響が小さくなるようにしています。セシウムはいろいろな臓器や筋肉など、広く沈着するので、「Cs137は生体に均一に分布する」との仮定は、正当なものです。しかし、均一に分布すると言うのは、あくまでも生体をマクロに見た場合で、細胞レベルで見た場合は、局在化しているかもしれない。セシウムと同じアルカリ金属のナトリウムは、主に細胞外にたまるのに対して、カリウムは主に細胞内にたまります。セシウムだって、ミクロで見た場合に、生体に均一に分布することはないでしょう。もし、局在化しているならば、その部分だけ、より大きな被曝をするので、癌の発生率は上昇します。
 それから、放射線被ばくによる発癌率データは、広島・長崎の原爆被曝の調査に基づいています。これらは、外部被曝が中心だったため、β線の被曝は皮膚付近の限られています。皮膚に被曝した場合と、臓器に被曝した場合の健康被害を、同じ尺度で測ってよいとはちょっと考えにくいことです。
 と、言うことで、私が考えた手法は、健康被害を算定するには、あまりにもズサンです。いくらなんでも、こんなズサンな推定で、安全基準を作っているとは思いたくありません。本当は、どのようにして、ベクレルとシーベルトの換算値を算出したのでしょう。
 
 原発の安全解析は、ボーっとして説明を聞くと、もっともらしいのだけれど、解析モデルや解析に用いた諸量を詳しく検討すると、本当にそれで良いのか疑問なことが多々あります。明白に間違いであるとは言えないのですが。ベクレル・シーベルト換算も同様だったら、嫌ですね。
  
 
いろいろな放射性核種に対する、ベクレル-シーベルトの換算は以下に記載されています。
http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/4_1.html

* * * * * *

<< 2011/06 >>
01 02 03 04
05 06 07 08 09 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

RSS