内部被曝と外部被曝 -単純に線量比較で良いのか2011年06月20日

今日(2011.6.20)の朝日新聞に『イラクの村、放射能汚染の影 8年経てがん相次ぐ』との記事がある。
「イラク戦争による混乱の中、近くの核施設から村民が放射性物質が入った容器を持ち出して貯水タンクなどとして使った」ことが原因で、ガン患者が相次いでいるとの趣旨である。
http://www.asahi.com/international/update/0619/TKY201106190405.html

 核施設にあった放射性物質が入った容器に入っていたものは、ウラン化合物、いわゆるイエローケーキだろう。容器を十分洗浄しなかったため、ウランの一部を経口摂取した可能性が高い。では、どれくらいのウランを経口摂取すると、健康被害が現れるのだろうか。


放射性物質の質量をベクレルに変換することは、物理法則を使えば、容易である。次式となる。

1gの放射能(単位ベクレル)=アボガドロ数÷質量数÷半減期(単位は秒)÷ln2

この式を使って計算すると、
 1gのウラン238は12400ベクレル
 1gのウラン235は80400ベクレル 

 ベクレルをシーベルトに変換するためには、物理だけでは無理で、ICRPの実効放射線係数が使用される。この数値は、公益法人原子力安全研究協会のページに公開されている。
http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/4_1.html
 ウラン238、235を経口摂取した場合の実効放射線係数は、それぞれ、4.5E-8,4.7E-8となっている。

 これらの値を使って、1gのウランを経口摂取した場合の被曝量は何シーベルトになるのかを計算する。原発の燃料はウラン235が0.7~5%程度なので、ここでは、ウラン235が3%、238が97%とする。

 12400×4.5E-8×0.97 + 80400×4.7E-8×0.03 = 6.55E-4 (Sv)

 すなわち、1gの燃料ウランを経口摂取した場合の被曝量は0.655ミリシーベルトとなる。今回、福島原発事故では、原発労働者の被曝基準が250ミリシーベルトと定められている。この程度の被曝では、健康被害がないとの説明がなされる。250ミリシーベルト被曝するためには、燃料ウランをどれだけ摂取するのか計算してみよう。

 250÷0.655=381(g)

 驚くことに、燃料ウランを381グラム経口摂取すると、250ミリシーベルト被曝に相当することになる。つまり、公益法人原子力安全研究協会のページに公開されている『実効放射線係数』を正しいものと信用するならば、燃料ウランを381グラム経口摂取しても、放射能による健康被害は起こらないと言うことである。

 再び、朝日新聞の記事に戻ろう。容器を十分に洗わなかったとしても、一人当たり、燃料ウランを381グラムを経口摂取するなどあり得ないことだ。

 質量をベクレルに換算することは、単に物理法則なので、疑問の余地はない。ICRPの実効放射線係数を正しいものと考えると、250ミリシーベルト被曝は燃料ウラン381グラムを経口摂取することと同等であるが、こんな多量のウランを経口摂取するなど、有り得ないだろう。
 朝日新聞の伝える「イラクの健康被害」は虚偽であると考えるべきか、ICRPの実効放射線係数は、健康被害には当てはまらないと考えるべきか。なお、ICRPの実効放射線係数は、現在、食品や水道水の残留放射能安全基準に、使われています。

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