本の紹介-日本の原発技術が世界を変える2011年06月28日



日本の原発技術が世界を変える(祥伝社新書225)豊田有恒/著(2010/12/1)

お薦めしない本です。

 この本は、福島原発事故の3か月前に出版されたもので、原発の安全性を主張し、原発を推奨する立場で書かれている。著者は、SF作家であって、一般の人よりも原発に詳しいようであるが、その知識の程度は、知れているようだ。福島原発事故によって、原発安全性の主張が誤りであったことが実証されてしまったので、そういう意味では、読む価値のない本ではあるけれど、原発推進論者は、どのような論拠で、安全性を主張していたのかを知りたかったために、読んでみた。
 原発推奨の論理は、政府関連機関により、広報パンフレットが発行され、無料で配られているので、それらを見れば分かることだが、そのような広報活動によって、どのようにして、安全性を信じ込まされるのか、その思考過程が知りたいと思い読んだ次第である。

 読んでみて、がっかりした。安全性の論拠や、推進の論拠が示されているとは言い難い。原発反対論者を、技術論や社会論で批判するのではなくて、シーシェパードと同じだ、とか、単に、自分の嫌いなものと、結びつけて批判しているにすぎない。本書は、反原発を批判し、原発推進を主張しているが、具体的論拠を示している部分はきわめて少ない。多少論拠を示している部分も、言葉の曲解や、稚拙な技術論で、まともな論拠とは言い難い。

 原発は「トイレのないマンション」と批判されることがあるが、この点に関して、この本では、トイレを核の再処理工場の意味であるように書き、仕方ないことだったと弁解している。変態の人で、ウンコを好んで食べる人がいるかもしれないが、多くの人にとってウンコが食べ物ではなく、トイレが食糧生産場所でないことは知っているだろう。「トイレの無いマンション」の比喩は、最終処分のことを言っており、再処理のことではないことぐらい、誰でもわかるはずだ。このように、本書では、むりやり関係ないことをデッチアゲて、原発反対論を批判している。

 技術的観点の見解も極めて稚拙である。柏崎原発は、地震で大きな被害を受けたことがあるが、この時、原子炉は地震に耐えることができ、大事に至らずに済んだ。本書では、原発が地震で安全だったことを示したかのような主張をしている。とんでもない愚かな見解である。原発のいろいろな場所は地震でも安全なように設計されているが、そこに誤りがあり、地震被害を受けたものだった。設計思想・耐震安全基準など、どこかに誤りがあったことを示しており、同じように設計された原子炉も場合によっては危険が及んだ可能性を強く示唆しており、事は重大だった。
 たとえ話をしよう。酔っ払い運転で街中を高速で飛ばし、信号無視を繰り返した場合でも、危険を察した他車や歩行者が避けたため、人身事故に至らないかったとする。この場合、酔っ払い運転や信号無視は安全であることが証明されたと考える人はいないだろう。

 原発反対論を批判する部分は、言葉により嫌悪しているだけであり、具体的論拠を示していない。原発の安全性を主張する部分も、同様に、論拠を示していないか、極めて稚拙な見解でしかない。この本を読むならば、無料で入手できる、政府系機関の原発推進パンフレットを読んだ方が、はるかにマシだ。

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