本の紹介―誰も国境を知らない2011年09月15日


誰も国境を知らない―揺れ動いた「日本のかたち」をたどる旅 西牟田靖/著

本の内容は、著者が訪れた地域の取材記。北方領土、竹島、尖閣、沖ノ鳥島、硫黄島など普通の日本人が訪れることができない場所を取材している。ただし、尖閣は飛行機を使っての上空からの取材。北方領土には、二度、ロシアのビザを取っての訪問である。二回とも、国後・色丹で択捉島は入っていない。
著者は、取材した事実を客観的に書いており、好感が持てる。
日本の国境問題を考えるためには、実際に国境地域がどのようになっているのかを知ることが重要だ。この本は、いろいろな地域を取り上げているので、それぞれの個所の記述が少ないことが残念ではあるが、日本の領土問題を考える上で、実際にその地域がどうなっているのかを知る上で、たいへん参考になる本だ。

ただし、本当にそうなのだろうかと、疑問を感じる記述もある。

P294に、北方領土周辺海域の密漁に関して、次のように書かれている。
日本の港へのロシア船の入港が禁じられていた時代には、日本側からの密漁が続き、そうして水揚げされる海産物が根室など道東の経済をささえていたようなところがあった。密漁せざるを得なかったのは、ソ連に北方領土と周辺海域を不法占拠されていたためである。
この文章の前半には疑問は無いが、後半は本当だろうか。ソ連・ロシアの実効支配なので、日本の漁船は漁業交渉の範囲を越えて漁が出来ないことは事実であるが、それが、密漁の理由なのだろうか。
戦前、北方領土周辺海域の漁業は盛んだったが、漁業権を持っている漁民は少なく、多くは、根室や釧路で生活する漁業権を持った旦那方の船に乗って漁業をする労働者だった。戦後、北方領土周辺海域で、漁業が出来なくなると、漁業権保持者には、政府の何らかの援助が行われているはずだ。
北方領土周辺海域で密漁している犯罪漁民は、もともと、この海域の漁業権を持っておらず、日本の海であっても、外国の海であっても、いずれの場合でも、漁業が認められていない人たちが、多いのではないだろうか。

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