再臨界2011年11月04日

 2号機で、キセノン133、135が見つかった問題で、当初、東電は再臨界の可能性に言及していました。その後、大臣が否定すると、東電はそれに追随するように、自発核分裂に説明を変更した。こういうのって、良くない。再臨界かどうかは、政治判断ではない。
 再臨界だったかどうかは別として、部分的小規模な再臨界が起こる可能性はあります。それを避けるために、ホウ酸水注入は合理的判断です。

 以前、菅内閣の時、海水注入が遅れたとかで、斑目先生が、再臨界は起こらないと言っていました。この人、大丈夫なのだろうかと思ったのですが、部分的小規模再臨界ならば、起こらないとは言えないはず。海水注入前に、ホウ酸水注入を考えるのは、当然のことです。

 かつて、原発関係の研究は、花形だった。TMI事故後、ちょっと怪しくなって、他分野に比べて、それほど花形でも無くなった。チェルノブイリ以降、原発研究に、学生が行きたがらなくなり、落ちこぼれの吹き溜まりになってきていた。
 
 福島以降どうなるのだろう。原発研究に入ったとしても、後は、廃炉しかない。すべての原発が廃炉になったら、失業以外の道は無い。そういう研究をまともな青年がするのだろうか。
 将来、原発を安全に稼働することも、安全に廃炉にすることも、不可能になるだろう。原発技術者が生きている今、すべての原発を廃炉にしないと、手遅れになるかもしれない。

北方領土問題解説の追記2011年11月07日

 終戦間際に、ソ連が対日参戦したことを国際法違反であるかのようなことを言う人がいます。1956年の日ソ共同宣言により、お互いの請求権は消滅しているので、参戦のいきさつがどうであっても、今後、政治の俎上に登ることの無い話題です。また、既に、東京裁判でも、ソ連の参戦が正当であることは、確定済みで、この判決を日本も受諾しています。

 このため、ソ連対日参戦が国際法上問題であるかどうかなど、あまり興味は無かったのですが、最近、ロシア側の解説で、国連憲章を根拠に、ソ連対日参戦は国際法上合法であるとの説明を見ました。これは、ポツダム会談での、トルーマンの説明の焼き直しであって、新味はないのですが、ずいぶん昔に忘れ去られた説明であるため、最近のロシア側の研究成果のように誤解する人もいろようです。このため、北方領土問題の解説の中の、「3.3 ソ連の対日参戦は不法??(http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/Hoppou3.htm#3_3)」に、以下の文章を追記しました。



アメリカが要請し、国際法上の合法根拠を与えたソ連対日参戦

 1943年11月のテヘラン会談で、アメリカ大統領ルーズベルトはスターリンに対日参戦を求め、ドイツ降伏3ヶ月後に、ソ連が参戦することが同意された。1945年2月のヤルタ会談でも、ルーズベルトはスターリンに同様の要請を行い、ドイツ降伏3ヶ月後のソ連対日参戦が合意される等、アメリカは再三にわたりソ連に対日参戦を要請していた。
 1945年7月27日、ソ連外相モロトフは、米大統領トルーマン・国務大臣バーンズを訪ね、日ソ中立条約の残存期間であることを理由に、対日参戦するに当たって、アメリカ・イギリスと他の連合国がソ連政府に戦争に参加してほしいとの要請文書を出すことを求めた。この要請に対して、アメリカ国務長官バーンズは国務省の法律専門家であったベンジャミン・コーヘンの助言により、このような要請文書がなくとも、中立条約を破棄して参戦することは国際法上合法であるとの結論を得た。そこで、7月31日、トルーマンはスターリンに対して、以下の内容の書簡を送った。

 「1943年10月31日のモスコー宣言では、法と秩序が回復し一般的安全保障制度が創設せられるまで、平和と安全を維持するために、(米英ソ3国は)相互に協議をとげ、国際社会のために共同行動をとることになっている。また、いまだ批准されていないが国際連合検証草案の第106条でも、憲章の効力を生ずるまでは四大国がモスコー宣言に基づいて行動することになっているし、また第103条では国際連合憲章による義務と他の国際協定の義務が矛盾する場合は、憲章に基づく義務が優先する。ソ連は平和と安全を維持する目的で、国際社会に代わって共同行動をとる為に、日本と戦争中の他の大国と協力せんとするものであるというべきである。」(萩原徹/著「大戦の解剖」1950年、読売新聞社 P261-P267)

 未批准の国連憲章を根拠に、参戦を合法化するとの考えは、素人には分かりにくいが、これより前の6月26日には51ヶ国が署名していたので、すでに、国際慣習法として成立しているとの考えだろう。ともかく、この書簡により、ソ連の対日参戦は、国際義務に違反しないことになった。
 ソ連が、日本に宣戦布告すると、アメリカ国務長官バーンズはプレスに声明をリリースし、大統領はポツダム会談で、ソ連の参戦はモスコー宣言第5項と国連憲章第103条、第106条によって正当化されると述べたと説明した。

<参考文献>
 外務省/編「終戦史録4」昭和52年、北洋社 P75-P96
 長谷川毅/著「暗闘」2006年、中央公論新社 P37-P46,P244-P282,P336-P339
 マイアニ/著、安藤仁介/訳「東京裁判」1985年、福村出版 P118-P120

1111112011年11月11日

 
今日は、11年11月11日。
写真は、1911年11月11日にラトビアのLIBAVAから差し出されたはがき。

本の紹介-内部被曝の脅威2011年11月14日


内部被曝の脅威 ちくま新書(541)

 著者の肥田氏は、軍医として、広島原爆投下直後から、原爆被災者の治療にあたり、原爆症の様態を観察した第一人者。原爆症は、原爆投下による直接被爆以外に、内部被曝の影響による健康被害を古くから指摘している。
 この本は、イラク戦争の時に、米軍が投下した劣化ウラン弾による内部被曝を警告するものであり、福島原発以前に書かれているので、福島原発の話は無い。
 
 内部被曝の健康被害は、放射線吸収エネルギー換算で、外部被曝と同じに扱うことが出来るとの説があり、現在政府の安全対策はこの説に基づいている。しかし、著者は臨床経験からこの説に反対し、内部被曝の影響はもっと深刻であると主張する。
 どちらの説が正しいのか、私には分からないが、こういうときは、安全側に判断して、内部被曝はなるべく避けるべきだ。将来、内部被曝を外部被曝と同じに扱ってよいと分かったならば「心配しすぎでしたねー」と笑い話で終わるだろう。逆に、もし、内部被曝の健康被害は深刻であることが分かったら「心配が足りなくて子供が癌で死んだ」では、済まされない。

本の紹介-日本人はなぜ終戦の日付をまちがえたのか2011年11月24日

色摩力夫/著 日本人はなぜ終戦の日付をまちがえたのか  黙出版(2000/11)

 お勧め本とは思えないが、読んだので、忘れないように書き留めておきます。

 終戦の日の日付についての解説は非常に少なく、本の大半は、日本の降伏は無条件降伏ではないとの主張を展開している。
 論の基本は、ポツダム宣言第5条に条件と書かれており、以下の条は降伏条件であり、さらに降伏文書で、ポツダム宣言の条件を履行することになっているので、日本の降伏は無条件降伏ではないとの趣旨である。
 しかし、この論はおかしい。ポツダム宣言第5条は「terms」であり「条件」とは異なる語が使われている。ポツダム宣言英文を和訳するときに、訳者が6条以下を条件であると思って、5条の「terms」を「条件」と訳すことはあるが、5条の「terms」の訳が「条件」となっているからといって、直ちに、6条以下が条件であることを意味しない。
  
 さらに、この件に関して、本書の中にはとんでもない誤った記述がなされている。P32に「降伏文書の中でポツダム宣言の条件の履行が義務付けられている」となっているが、降伏文書の日本語訳を見ると、「ポツダム宣言の条項」となっており、著者が言うように条件とは訳されていない。原語は「provisions」である。

 著者は、長年外交官を勤め、退官後は、大学教授になっているが、そのような経歴を考えると、P30には、不思議な記述がある。
 降伏文書には「subject to」となっている英文が「制限の下に置かるる」と訳されている件に対して、『軍部や日本国民一般への配慮からか、一見あたりさわりのない訳文とされたようである』と説明している。
 この件に関連して、ポツダム宣言受諾に対する米国回答の日本語訳について、下田武三は『"subject to"は"隷属する"の意味では有るが、これでは軍部が受け入れないので、"制限の下に置かれる"と意訳した』と説明している(下田武三/著 戦後日本外交の証言 上 1984年(昭和59年)8月、行政問題研究所)。
 日本語訳の正確性を吟味する上で、必要な情報を十分に調査しないで本書は書かれているのだろうか。

本の紹介-なぜ「北方領土」か2011年11月26日

  
山県泰三/著 なぜ「北方領土」か 三省堂(1983.1) 

お勧め本とは思えないが、読んだので、忘れないように書き留めておきます。

 北方領土の地誌、領土問題の発生のいきさつ、千島列島の歴史、領土交渉など、北方領土問題について幅広く扱っている。著者はそれなりに、詳しい知識を持っているように思える。
 しかし、知らないことに、自分勝手な、推論を展開して、独りよがりな結論に達している点が多々見られる。
 極め付きは、著者の千島とクリル論である。著者は、千島とは、国後択捉を含むと力説しているが、歴史的に見た場合著者の論は正しい。ところが、クリルは、ウルップ以北を指すと根拠薄弱な推論をしている。クリルの範囲が疑問ならば、江戸末期の日本の地図や、現代に至る国内外の地図を検証すればよいのに、そのようなことをせずに、いい加減な主張をしているのには、あきれ返る。さらに、根拠薄弱で誤った結論をもとに、北方領土が日本の領土であると結論付けているが、あまりにも、雑な議論である。
 これ以外にも、分からないこと、知識不足な点を自分勝手な推論で結論を導き出している点が多々あるので、北方領土問題に詳しくない人には、どこまでが正しい知識で書かれていて、どこからが、著者の独りよがりな推論なのかを判別することは困難だろう。

 著者の経歴を見ると、教師だったそうである。教師は生徒に聞かれたら「知らない」とは言いにくいので、知ったかぶりをして、いい加減な知識を披露する者も多い。そういう教師は、生徒にとっては、最低最悪であるが、どうも著者の論を見ていると、このようなダメ教師の授業風景のように思えてくる。





北方領土問題の解説は、ここをご覧ください。
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/index.htm
 
やさしい北方領土問題の解説は、ここをご覧ください。
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/Yasashii.htm

* * * * * *

<< 2011/11 >>
01 02 03 04 05
06 07 08 09 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30

RSS