本の紹介-記録・沖縄「集団自決」裁判2012年04月17日


記録・沖縄「集団自決」裁判  岩波書店/編


 大戦末期、沖縄は戦場となり、多くの民間人が死亡した。死亡者のなかには、直接、日本軍により殺害された者や、集団自殺を強いられたものなどがあった。
 集団自殺を強いられた者の中には、誤った教育宣伝のために、占領よりも自殺を選択した者もあったが、日本軍により自殺を命じられたものや、日本軍により壕を追い出され絶望のうちに自殺をしたものなど、日本軍の直接・間接の関与で、自殺に追い込まれたものがあった。

 日本の右傾化に伴い、一部勢力は、沖縄集団自殺には、日本軍に原因があった事実を隠蔽し、愛国美談に作り上げようとの目論みで、ノーベル賞作家・大江健三郎と岩波書店に対して、損害賠償・出版差し止め請求を行った。大江の書いた岩波新書「沖縄ノート」の記述で、沖縄集団自決の原因が日本軍人にあるように書かれていることは史実に反し名誉を棄損したとの言い分だ。単なる民事訴訟にすぎなかったが、この訴訟を理由に、文部科学省は、教科書に、沖縄集団自殺には日本軍の関与があったとする記述を禁止した。本来、訴訟中の案件で、一方の当事者の見解を理由に、教科書記述の変更を強制するなどあり得ないことであるが、強引な教科書変更が強要された。

 裁判は、1審、2審ともに、大江健三郎と岩波書店側の全面勝訴となり、さらに、上告棄却となり、大江健三郎と岩波書店側の全面勝訴が確定した。

 本書は、裁判で被告人になった大江健三郎と岩波書店側からの解説で、裁判の概要と背景を理解する上で、格好の参考書である。ただし、多数の人が、裁判そのものや、背景などを書いているので、重複する部分が多く、さらに、一人の文章の分量が多くないので、解説に、やや物足りないものを感じる。もし、この本だけでは不足を感じる人は、1審大阪地裁の判決書、2審大阪高裁の判決書を読むことをお勧めしたい。

判決書などはここにあります。
http://osaka-rekkyo.main.jp/okinawasen/

* * * * * *

<< 2012/04 >>
01 02 03 04 05 06 07
08 09 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

RSS