本の紹介-本多勝一の戦争論2012年04月25日

 
本田勝一/著 本多勝一の戦争論 新日本出版(2011.1)

 週刊金曜日など本田勝一の最近の論文を集めたもの。それぞれの論文が、数ページなので読みやすいが、若干物足りなさを感じる。
 本の内容は、3部に分かれている。第1部は南京事件の取材と、南京事件や100人斬り否定派との裁判について。第2部はベトナム戦争と米国、第3部は現代日本と戦争報道のジャーナリズム論。

 第1部では歴史捏造派の人たちとの3つの裁判に触れている。このうちの2つは、歴史捏造派が南京事件を否定する本を出版したのに対して、その中の記述で名誉を毀損された中国人が損害賠償請求をしたものだ。どちらも、歴史捏造派が敗北して、中国人に損害賠償を支払うことが確定した。もう1つは、本田勝一が100人斬りについて書いた記述が「事実に反して名誉毀損である」と、前2件とは逆に歴史捏造派の人たちが起こした裁判だった。こちらは、本田勝一が完全に勝訴した。
 『南京大虐殺』『100人斬り』は史実として明らかになっていることなので、本田勝一らの勝訴は当然のことだった。

 
 『100人斬り』論争について、知らない人もいるだろうから、若干の説明をする。

 南京大虐殺の時、毎日新聞の従軍記者によって、野田少尉らは100人斬りした英雄として称賛された。本田勝一は、彼の著書の中で「中国人がそういうことがあったと回顧した」旨の記述をした。
 戦後、日本は価値観を変えて、100人斬りは悪いことだと言うようになった。価値観を変えたのだから、「野田少尉らは悪い奴だ」と言うのは理解できる。価値観を変えても未練がましく「昔の価値観では野田少尉らは偉かったのだ」と言うのも理解できる。しかし、歴史捏造派の人たちは、100人斬りはなかったと主張した。このような主張のうち、ペテン師イザヤベンダサンの嘘は極端で、「100人斬りは中国人と本田勝一による捏造である」ような主張をした。ペテン師イザヤベンダサンは向かってくる敵を100人も倒すことは体力的にも刀の性能からも不可能であると主張したが、100人斬りを果たしたとされる野田少尉は、捕まっている捕虜を100人切り殺したと説明していたので、イザヤベンダサンの主張はまったくナンセンスなものだったが、ともかく、このようなずさんな見解に基づいて、起こされた名誉棄損訴訟だった。
 裁判は1審2審とも本田勝一の完全勝訴、さらに、最高裁で原告側控訴が棄却され、本田勝一の勝訴が確定した。

 『百人斬り』は当時、毎日新聞の従軍記者が野田少尉らの武勇として伝えたものだった。日本軍の発表など、嘘八百だったのだから、百人斬りが真実でなかった可能性は高いし、そんなことは、今となっては、どうでもいいことのように思う。しかし、戦後、野田少尉の武勇を辱め、野田少尉が嘘つきであったと主張することが、どうして、日本人の誇りなのか、私には理解できないが、この本にも、その疑問には答えていない。もっとも、この点は本書の目的ではない。

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