本の紹介-別海から来た女2012年07月07日


別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判 佐野真一/著 講談社 (2012/5/25)

 北海道・別海町は北方領土問題の地元。別海町議会議長を長い間勤めた木島正英氏の孫である木島香苗被告は、結婚をちらつかせ多額の金銭を騙し取り、発覚しそうになると男たちを次々と殺害した、3件の殺人容疑で、今年4月13日に1審埼玉地裁で死刑判決が下った。
 この事件では、木島香苗被告が「デブ」「ブス」であり、到底、結婚詐欺をする女に見えないことと、次々に男を殺した犯行の残忍さによって、マスコミをにぎわせた。

 本書では、埼玉地裁での裁判の様子を中心に、被告の生い立ちや被害者の人となりを取材している。取材対象は、木島正英氏を始め、木島香苗の母親、木島が少女時代に取貯金通帳を盗んだ相手の関係者、殺人被害者家族、詐欺事件の被害者等、広範囲におよび、被告がなぜこのような犯行にいたったのか、被害者はなぜ簡単にだまされてしまったのか、このような観点で、本書は書かれている。

   被告が「デブ・ブス」なのに、男性にモテタ点に関心を向ける週刊誌記事などが多かったが、本書ではそのような点にはまったく関心が向けられていない。事件は殺人・詐欺であり、被告がそのような大量犯罪に走った理由が社会的関心と言うべきで、被告がモテタ理由などドウでもよいことなので、著者の基本的な態度には好感が持てる。
 本書では、被害者男性が簡単にだまされた理由を追っている。なぜ、そんなことに関心が向くのか、私には理解できない。世の中には、簡単にだまされる人もいる、と言う単純な事実を言っているに過ぎないのではないだろうか。ネット社会を使って、被告が鴨を探し当てやすかったことはあるだろうが、このことは、手段の一つに過ぎない。

 著者は、裁判に不満なようである。確かに、裁判では、検察の陳述以上に明らかになったことはない。しかし、裁判とは真相を究明するところではなくて、検察側・弁護側提出の証拠に基づいて判断するところであり、真相の更なる究明はジャーナリストの責任だ。
 裁判で、被告は犯行を全面的に否認したので、殺人が事実としても、殺人に至った被告の本心は分からない。裁判では解明されていない。本書でも、解明されたとは言いがたい。

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