本の紹介-中国国境熱戦の跡を歩く ― 2014年11月05日

石井明/著『中国国境熱戦の跡を歩く』 岩波書店 (2014.8)
かつて、中国は周辺国と、多数の国境紛争を抱えていた。本書は、かつて中国の国境紛争になった地域や、現在国境問題がある地域を7か所取り上げ、1か所1章にまとめている。各章は、紛争の経緯と、著者が訪ねた時の様子が記され、現在の様子の解説では、写真が添えられているが、写真の枚数は少ない。
第4章は、文化大革命中に中ソ国境紛争となった珍宝島。当時、中国は、ソ連が攻めてきたように宣伝していたが、本書によれば、当時、毛沢東が、文化大革命の混乱を終結させ、国民の支持を取り付けるために起こしたものとしている(P112~P115)。
最終章(第7章)は日本との領有権問題になっている尖閣の話題。ただし、衝突の経緯も、歴史的経緯も、現在の状況も、どれも、説明は少ない。日中国交回復などで、尖閣衝突がひとまず回避された経緯・・・いわゆる棚上げ論・・・に対する説明に、多少のページを割いている。また、最後の6ページ程度で、中国が、沖縄日本領との認識盛った経緯が記されている。
本の紹介-永続敗戦論 ― 2014年11月09日

白井聡/著 『永続敗戦論――戦後日本の核心』 太田出版 (2013/3)
第二次世界大戦で、日本が敗戦国になったのは明白な事実であるが、日本は、国内および周辺国に対して、敗戦を否認し、米国に対しては盲従を続け、自らを容認し支えてくれることを期待する。このような状態が、戦後一貫して続いている。者者は、これを「永続敗戦」と称している。
「戦後」とは要するに、敗戦後の日本が敗戦の事実を無意識の彼方へと隠蔽しつつ、戦前の権力構造を相当程度温存したまま、近隣諸国との友好関係を上辺で取り繕いながら-言い換えれば、それをカネで買いながら-、「平和と繁栄」を享受してきた時代であった。(P115)
本書に記載されている内容には、ほぼ全面的に賛成なのだけれど、当たり前のことが書かれているように感じる。日本は、このような内容の本を、出版する必要がある社会になったということか。
本書は3つの章に分かれている。このうち、第2章で日本の領土問題(北方領土・竹島・尖閣)を取り上げている。これら領土問題が未解決である原因は、「永続敗戦」の理論に従うと理解しやすい。
空家の相続(1) ― 2014年11月24日
空家の相続(2) ― 2014年11月25日
本の紹介-国境の人びと ― 2014年11月26日

山田吉彦/著『国境の人びと: 再考・島国日本の肖像』 新潮選書(2014/8)
著者は、日本の領土問題、特に尖閣海域問題で執筆も多く、また、テレビ出演も多いので、著者の見解を知っている人は多いと思う。
本の内容は、領土問題を扱ったものと言うよりは、日本の国境地域のようすや、人々の生活を記載している。多くは、著者の取材に基づいた記述と思われる。このため、領土問題を政治・歴史的側面から考えるのではなくて、日本の国境地域の現状について、考える上で、参考になるだろう。気楽に読める内容になっている。
著者は海洋政策が専門であり、尖閣問題に対する著書は多いけれど、竹島問題や、北方領土問題、これらの歴史的経緯については、専門外なのだろうか。P70に『竹島の江戸時代までの呼称は、松が生い茂っていることから「松島」だった』とあるが、これは、本当だろうか。竹島は、岩島なので、松は、あまり生い茂っていない。
国後島の記述(P87,P88)にも疑問がある。著者は、国後島が発展から取り残され、生活が非常に厳しいように書いている。著者が取材した時はそうだったかもしれないが、メドベージェフの来島・クリルプロジェクト以降、急速にインフラ整備が進んでいるので、本書の記述は、時代遅れではないだろうか。北方領土の発展に比べ、根室は寂れるばかりで、人口減少・小学校の廃校など、暗い話題ばかりが目につくが、本書には、そういうことは書かれていない。
尖閣は国が買い上げたが、元・尖閣所有者だった栗原氏が、最初に買い上げを言いだした東京都ではなくて、国に販売した理由は定かではない。本書P20では「地権者の気持ちは、島に多額の購入費用を提示する国への売却に傾いていた」としている。
本書は決して中立的観点ではなくて、日本や右系の人たちに都合のよい記述に感じる。それはそれとして、日本の国境問題を理解する上で、気楽に読むのに、一定の価値はある本だと思う。