本の紹介-千島列島の植物2015年05月29日


高橋英樹/著『千島列島の植物』北海道大学出版会 (2015/3)
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千島列島の植物を外来種にいたるまで網羅。植物を科ごとに分類し、学名・分布状況などが詳述されている。千島列島の植物を知る上で、最も重要な文献だろう。本書は、学術書であって一般向け啓蒙書ではないので、植物の絵図はなく、本書を理解するためには、ある程度の予備知識が必要。

本書のメインは千島列島の植物を網羅することであるが、千島列島の植生の解説も詳しい。

 千島の植生は、エトロフ島とウルップ島の間にひかれた「宮部線」が有名だった。択捉島中部・南部の低地はトドマツなどの高木林がみられるが、択捉島高地や択捉島北部以北ではハイマツなどの低木林となる。島ごとに見れば、択捉島とウルップ島で異なることになるので、宮部線は両島の間にひかれたものだった。
 ウルップ島・シムシル島を隔てるブッソル海峡は、水深2000mを超え、オホーツク海から太平洋に流出する強い海流がある。本書の植生解説によれば、ロシア人研究者バルコフ等は、1,400種あまりの維管束植物分布を詳細に検討した結果、ブッソル線に千島の主要な植生分界があることを報告した。また、バルコフ等の研究では、択捉島中南部と択捉島北部の間に植生分界が引かれている。

 政府系機関である「独立行政法人 北方領土問題対策協会」の解説には、『北方領土の島々は、北海道本島の動植物の分布と全く同じで、得撫島より北の千島列島のものとは違いがあります』と書かれている。
http://www.hoppou.go.jp/gakushu/outline/islands/island2/ (2015.5.29閲覧)
 北方領土が北千島と違うことを強調したいあまりに、明治時代の不十分な知識を振りかざすまえに、天下り官僚たちは、本書を読んで千島列島の植生を多少理解してほしいものだ。

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