領土対立を煽る人たち2015年07月24日


 尖閣問題で日中の対立が続いている。東シナ海の日中境界線も定まっていない。
 中国は、日本が主張する東シナ海の境界線の中国側でガス田探索を行っているが、この場所は、中国以外に経済水域を主張する国はないので、国際紛争になることはない。それにもかかわらず、日本政府は、中国のガス田探索に抗議している。海底のガス田が中間線をまたいで日本側にも広がっている可能性があり、日本の資源が吸い取られる恐れがあるとの理由だが、日本は、東シナ海のガス田掘削調査を行ったことがないので、日本の主張は単なる憶測にすぎない。苦情を言う前に、きちんと掘削調査して、事実を確認すればよいのに。

 日本で尖閣問題が騒がれるようになったのは1960年代の終わりのことだった。1967年、台湾の人が尖閣に上陸して住みついているのではないかとの報道があったが、このとき日本政府は目立った対応をしなかった。1969年、ECAFE(国連アジア極東経済委員会)により、1000億バレルが見込める大規模海底油田の可能性が指摘されると、沖縄返還気運とも相まって、日本では、尖閣の主張が急激に高まった。
 このころ、日本は「エコノミックアニマル」として軽蔑されていた。エコノミックアニマルとは、文字通り訳せば「経済動物」となるが、アニマルは単に生物学上の動物と言うよりも、「ケダモノ」「蓄類」の意味に近い。「金儲けしか考えていないケダモノ」そんな軽蔑表現だった。エコノミックアニマルに尖閣の重要性を意識させるためには、「石油がいっぱいあるぞ」「儲かるぞ、カネ・カネ・カネ」と宣伝することが一番効果的だったのだろう。

 その後、海底地層探査技術が向上したため、1994年になって、経済産業省の石油審議会開発部会がまとめたところによると、日中中間線の日本側東シナ海の原油埋蔵量は約30億バレルと1/30に下方修正された。この約30億バレルという数値も、当時の地層探査技術を使った推定値なので、技術の向上により、さらに下方修正される可能性がある。実際に原油があるかどうかは掘削して調査してみないと分からないが、日本は、掘削調査をしていない。いずれにしても、採算に見あう原油・天然ガスが実際に埋蔵されているかどうか疑わしいし、もしそうだとしても、大した量ではないだろう。

 さて、最初に掲載している本を読んで驚いた。著者は、海洋政策が専門の東海大学教授で、ときどきテレビ出演して、中国の脅威を煽る発言をしている。

山田吉彦/著『日本は世界第4位の海洋大国』 講談社α新書 (2010.10)

 尖閣諸島の領有権問題は、国連アジア極東経済委員会が東シナ海の海底調査を行い、一九六九年に、尖閣諸島周辺海域に埋蔵量豊富な油田がある可能性が高いことを発表したのが発端である。その直後、日本は調査を行い、同海域の海底油田の推定埋蔵量は一〇〇〇億バレルを超えることが判明。一〇〇〇億バレルとは、世界第二の石油埋蔵国イラクの、全油田埋蔵量の合計にほぼ等しく、七〇〇兆円に相当する。
 また、中国は一九八〇年代に独自の調査を行い、尖閣諸島の海底には七〇〇億から一六〇〇億バレルの石油が埋蔵されている可能性が高いとしている。中国にとってエネルギー資源は垂誕の的であり、島の領有権を虎視眈々と狙っているのだ。
 では、尖閣諸島周辺海域に油田があるとして、それをどのように開発すればいいのか。(P159,P160)
 この本の出版は2010年なので、1994年調査から16年も経過している。専門家が、16年前の調査を知らずにいるなんて、恥ずかしくないのだろうか。1994年調査結果は、2006年の国会審議で紹介されているので、東シナ海の石油埋蔵に多少関心がある人ならば、誰でも知っていたことだ。
 と言いたいところだが、山田吉彦氏がそんなおバカさんであるはずはなく、おそらく知っていながら、ガメツイ日本人の心情に訴えて、中国脅威論を煽りたてたのではなかろうかと思う。2010年9月に、尖閣周辺で中国漁船と海保との衝突があったとき、日本の国内世論は中国脅威論で沸き立った。この時以降、国内世論は中国の軍事脅威論に変わったので、中国脅威論を煽りたてる人たちの多くも、そのように変節してきている。

 かつて、尖閣周辺には巨大油田があるとの宣伝を真に受けた人は多いが、今では、大間違いだったことが分かっている。現在、中国の軍事的脅威の宣伝があり、これを真に受けている人が多いだろう。本当なのか、大間違いなのか。日本の軍備増強によって儲ける人たちがいることは確かだ。

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