本の紹介-右傾化する日本政治 ― 2015年09月08日

中野晃一/著『右傾化する日本政治』岩波新書(2015/7)
保守合同以降のいわゆる55体制下の自民党と異なり、安倍政権に代表される自民党には戦前回帰の右翼的傾向が大きい。 本書は、1955年の保守合同以降の日本政治史を解明することにより、現在の日本政治が右傾化している現状を説明するもの。現在の日本政治が、戦後日本の中で、非常に右傾化している事実と、そのようにいたった経緯が明らかにされている。
2015.4.28の朝日新聞の記事『特派員外務省が記事を攻撃 独紙記者の告白、話題に』によると、在米日本大使館幹部は2014年12月、特派員に対し、中野氏について「よく分からない人物だ」「日本国内では、彼のことをよく知っている人はだれもいない」とのようなメールをしたそうだ。この、中野氏とは本書著者のこと。本書以外にも、岩波書店から『戦後日本の国家保守主義(2013.3)』を出版するなど、日本国内では有名な政治学者だ。それにしても、日本の官僚の右傾化も甚だしいものだ。日本の有名な学者の学説が、安倍政権と異なるからと言って、虚偽宣伝までして誹謗中傷するなど、先進国にありうるのだろうか。
再び、本書の内容に戻ろう。本書は、次の5つの章からなる。
序章
第一章 五五年体制とは何だったのか
第二章 冷戦の終わり
第三章 「自由」と「民主」の危機
終章
序章はイントロ。第一章では五五年体制の日本政治史の簡単な説明が為された後、この体制は経済成長によって得られた金によって保守支配を継続するものだったため、経済成長の鈍化と共に破綻したことを説明する。
第二章は東西冷戦が終結したころからの日本政治の変節の歴史を説明する。日本の右傾化はこの時代に起こっているが、単調に起こったのではなく、何度かの揺り戻しを経つつ、保守本流(旧吉田・池田系)の退潮や革新勢力の退潮を伴いつつ進行した。
第三章では小泉改革以降、本格的な右傾化の時代を説明する。
終章では現在の政治状況の説明と共に、対抗する方法が示されるが、内容・分量共に少ない。
本書は一般人向け解説書だが、著者は学者なので、解決の処方箋ではなくて歴史と現状を正確に認識することに主眼が置かれている。
この本に書かれていることは良く分かるのだが、どうも釈然としないことがある。
自民党の旧吉田派・旧池田派が消滅して、右翼勢力が伸長したのはなぜなのだろう。中曽根は個人的指向として旧時代的であったことは確かだろう。また、竹下・小渕と旧勢力の人たちが死亡したり、加藤の乱の失敗で加藤紘一が排除されたのは分かるが、それらが、右翼の躍進につながるわけでもないだろう。また、民主党政権には前原のような右翼志向の人がいたし、最後には野田政権になってリベラルが勢力を減らした事実はあるとしても、それは結果的に、そうなったのか、それとも国民の中にそうさせるエネルギーがあったのか。
日本政府の右傾化の事実と右傾化に至った歴史的経緯は本書で分かるとしても、それは、たまたまそういう方向にブレたのか、それとも、そういうエネルギーが国内外にあったのか、そのあたりが分からない。
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