本-「昭和天皇実録」と戦争 ― 2015年09月16日

栗原俊雄/著『「昭和天皇実録」と戦争』山川出版社(2015.8)
特別な感想はないのだけれど、読んだことを忘れないように書きとめておく。
昨年、昭和天皇実録が公開されたため、これに従って新たな歴史の解明が行われるようになり、関連した書籍もいくつか出版されている。本書も、そのような本の一つ。山川から出版されていることからもわかるとおり、歴史の研究・専門・学習のための本であって、娯楽的な気持ちで読むものではない。ただし、著者がジャーナリストなので、文章は読みやすく、専門知識がない人でも容易に読むことができる。
昭和天皇実録は宮内庁書陵部が編纂したものであるため、現在の役人の価値観による「昭和天皇を顕彰する」というバイアスがかかっているのは当然のことだろう。このため、現在の役人の価値観で悪いと思われることにはあまり触れず、あるいは悪いと思われるような表現を避ける傾向にあることは仕方ない。
本書は、おもに太平洋戦争の記述で、昭和天皇実録にはこのような問題があることを解明している。すなわち、すでに知られた事実が昭和天皇実録ではどのように書かれているか、あるいは書かれていないかを検討し、その性格を明らかにしている。昭和天皇実録は歴史資料として重要ではあるけれど、これが歴史のすべてではないので、本書のような研究は近代史を学ぶ上で重要な視点を与える。