本の紹介-尖閣研究 高良学術調査団資料集2015年12月01日

 
『尖閣研究 高良学術調査団資料集』 尖閣諸島文献資料編纂会/著 データム・レキオス (2007)
 
 米国統治下の1950年代から60年代にかけて、動物学者・高良鉄夫を団長とする第一次~五次にわたる学術調査団が、尖閣諸島の動植物を調査した。本書はこの学術調査の報告書・新聞記事・論文・調査メンバーの回顧を収録したもの。
 
 これらの学術調査が行われたとき、尖閣は古賀氏の所有だった。この時代、所有者の許諾のもと、学術調査団が数度にわたって尖閣に上陸し動植物の調査をしている。沖縄が日本に返還される頃になると、尖閣の所有者は古賀氏から埼玉の栗原氏に移った。栗原氏所有時代の尖閣は、学術調査団の上陸を拒否する一方で、広域暴力団住吉会系右翼団体の上陸がなされていたが、この右翼団体が持ち込んだヤギが繁殖して、自然破壊が進んでいる。 (1979年には沖縄開発庁による学術調査が行われている。)
 
 本書は、住吉会系右翼団体が原因で自然破壊が進む以前の尖閣諸島の自然状況を詳細に調査したものであるので、尖閣を知る上で貴重な史料である。
   
 本書によると、尖閣の動植物相は独自であるが、台湾のそれに近く、たとえば爬虫類では、沖縄に普通にみられるハブはおらず、シュウダが多数棲息する。植物ではソテツはどこにも見られない。

尖閣に蘇鉄はない2015年12月04日

尖閣問題のページに『尖閣にソテツはない』を書きました。
 http://cccpcamera.photo-web.cc/Ryoudo/Senkaku/index.htm
 http://cccpcamera.photo-web.cc/Ryoudo/Senkaku/ETC/Sotetsu.htm

 動植物学者を中心とした5次にわたる学術調査団の報告では、尖閣にはソテツはないとされている。しかし、指定広域暴力団住吉会系の右翼団体は、尖閣に上陸した時、いたる所にソテツがあったと報告している。無知な右翼は、ヤシとソテツの区別がつかなかったのかもしれない。しかし、右翼勢力には昭和天皇の言葉を出汁に使う者がいるので、ソテツとはどういう植物であるのかということと、学術調査団では尖閣にソテツはないと報告されていることなどを書いた。

本の紹介―北方領土問題、その原点はなにか?2015年12月06日


須田諭一/著『北方領土問題、その原点はなにか?』メトロポリタン新書(2015/11)

 本書は、これまで日本でいろいろと言われている北方領土問題の研究・解説・解釈をまとめたもの。日本政府の主張に都合のよいことを書くのではなくて、おおむね史実に沿った中立的な記述がなされている。北方領土問題に対する新しい知見があるわけではない。

 北方領土問題は日本とロシアの外交問題であるとの観点からすると、日露和親条約以降を考えればよいが、領土問題は民族の歴史観と深い関係があるので、近代以前の歴史をから解説する本が多い。
 本書は、北方領土問題を幕末の日露和親条約以降現在までの経緯を解説しており、それ以前の歴史的経緯の話はない。日露和親条約からサンフランシスコ条約までの期間の説明は多くなく、さっと流している感じがする。本書の主眼は、1956年の日ソ共同宣言以降の返還交渉の歴史に置かれている。

 このため、日露外交問題として北方領土問題の大要を理解するためには便利な本になっている。

 ただし、ちょっと疑問に感じる記述も多い。著者は、基本的な歴史や条約の理解が乏しいのではないかと感じる。一例をあげる。
 ソ連による北方領土への侵攻は8月28日から始まって9月5日に終了している。これは、日本がポツダム宣言受諾の意思を通告した後で、歯舞への侵攻は降伏文書調印後のことだった。この件に関して、P59に次の記述がある。 

降伏文書を署名するまでは、日本は正式に降伏したことにはならないので、百歩ゆずって国後島と色丹島まではいいとしても、歯舞諸島の占領は許せない行為です。ソ連の侵攻に対して、アメリカは特に警告を発することもなく黙認しました。
 著者は、ポツダム宣言・降伏文書・一般命令第一号を読んでおらず、単なるフィーリングで書いていると推察する。ポツダム宣言第7条によって、日本の諸地点は連合国に占領されることが決まっており、一般命令第一号では千島列島はソ連が武装解除することになっている。降伏文書によってこられの実施義務が課されているので、降伏文書調印後にソ連軍が武装解除に来ることは決められた手続きだった。このように、ソ連の進駐は国際合意に従った行為だったので、アメリカが異を唱えないのは当然のことだ。なお、小笠原や奄美を含む日本の多くの地点は降伏文書調印後に連合軍が進駐して占領された。千島の占領はどちらかといえば早いほうだろう。


 私が公開している北方領土問題の解説を読んでいただいている人は多いと思う。
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/indexHoppou.htm

 本書の著者も読んでくれているのだろうか。もし、読んでいただいたうえで本書を執筆したとしたら、ちょっと申し訳ないと思う点がある。P191に以下の記述がある。 
国後島と択捉島の南部と北海道は植物に大きなちがいはみられず、択捉島と得撫島以北の島々では植物に大きなちがいがみられます(宮部線)。
 これ、昔の不十分な調査結果で考えられた植物分界で、最近の調査ではブッソル線のほうが植物分界としてふさわしいとの説が有力だ。この話は、北大博物館のパネルには以前から書いてあったけれど、一般的な本では見かけなかったので、私のホームページにも触れないでいた。しかし、2015年2月に出版された「千島列島の植物」には、この話が書かれているので、私のホームページもそろそろ変えないといけないと思っているが、まだ手を付けていない状態だ。千島の植生について正しく調べるようにサジェスチョンを与えられなかったとしたら申し訳ない。

本の紹介-日本の中国侵略の現場を歩く2015年12月10日

 
青木茂/著『日本の中国侵略の現場を歩く 撫順・南京・ソ満国境の旅』 花伝社 (2015/7)
 
 平頂山事件、南京事件の式典や戦跡を見学したようす、ソ満国境地帯の戦跡を見学したようすが記されている。日本軍による中国侵略を考える上で参考になる。
 
 平頂山事件は撫順炭鉱を警備する日本軍の撫順守備隊が平頂山集落の住民の皆殺しを図った事件。現在、遺骨が展示されており、虐殺のすさまじさを伝えている。この事件は、中国では非常に有名だが、日本ではあまり知られていない。著者は、展示館を見学したり、記念式典に参加するなどして、史実としての平頂山事件のほかに、この事件が中国でどのように記憶され語り継がれているかを明らかにしている。
 
 南京事件についても同様な立場での記述。日本には、南京事件の地理的範囲を狭めて犠牲者数を少なく見せかけようとする人たちがいるが、本書は、そんなことには関心がなく、史実と中国でどのように記憶され語り継がれているかを明らかにしている。
 
 本書には旅行記のような雰囲気のスタイルで記載されているところが見受けられるが、私には著者の旅行には関心がないので、この部分は記述が冗長に感じた。

ソテツ2015年12月13日

 
尖閣問題のページに『尖閣にソテツはない』を書きました。
http://cccpcamera.photo-web.cc/Ryoudo/Senkaku/index.htm
 http://cccpcamera.photo-web.cc/Ryoudo/Senkaku/ETC/Sotetsu.htm
 
 ソテツの写真を張り付けようと思って、近所のお寺や植木センターにソテツを見に行きました。写真はお寺の庭にあるソテツ。ソテツが植えられた寺は多いのだけど、なんとなく日本に似つかわしくないような気がする。
 
 今は紅葉が見頃ですが、例年に比べると赤が薄いように感じます。

尖閣の裸子植物2015年12月14日

 
尖閣にはソテツはない。それどころか、琉球に普通にあるリュウキュウマツもない。尖閣にある裸子植物はイヌマキ1種のみ。
 
写真は、近所の植木センターで撮影したイヌマキ。
 
尖閣にはオオミズゴケのように、日本・中国大陸・台湾に分布し琉球にはないものがあるなど、尖閣の植生は琉球とは異なる。尖閣は、台湾島から彭佳嶼を通る中国大陸から続く大陸棚の先端に位置し、琉球列島とは海峡を隔てている地理的位置と関係しているのだろう。

本の紹介-中央アジア・クルグスタン2015年12月15日


  中西健/著『中央アジア・クルグスタン』(2011/10) 明石書店

  キルギス共和国の地理、歴史、政治を詳しく解説。

 歴史を含めて、ソ連崩壊以降のキルギスの状況がメイン。歴史の説明は、キルギスの公式な歴史をソ連時代と現在を比較しており、純粋な歴史と言うよりも、政治にとっての歴史の解説となっていて、キルギス政治を理解する上で重要な記述。
 民族問題、地域間の問題、アカエフ政権とバキエフ政権、2007年議会選挙の分析と、キルギスの政治を知る上で重要なことが記されている。出版が2011年のためアタンバエフ政権の話はない。

   日本で、独立以降のキルギス共和国を扱った本は少ないので、この分野に関心のある人にとっては必読書だろう。

本の紹介-「慰安婦」問題を/から考える2015年12月18日

 
 『「慰安婦」問題を/から考える』歴史学研究会・日本史研究会/編 岩波書店(2014/12)
 
 タイトルの斜線は「慰安婦問題を考える」ことと「慰安婦問題から考える」ことの両方の視点で慰安婦問題を研究しているという意味。
 
 本書は、歴史学研究会と日本史研究会の合同シンポジウムを元に作成された。本書の著者は、歴史学者19人。統一的に書かれた本ではなくて、各章ごとに異なったテーマで書かれているので、本としてのまとまりはあまりない。また、学会のシンポジウムという性格上、内容は高度であり、初学者には理解しにくいだろう。
 
 朝鮮女性の従軍慰安婦問題に関係した本であるが、朝鮮人慰安婦を直接対象とした章は少ない。本書の内容は、従軍慰安婦の背景や、従軍慰安婦問題の展開など、従軍慰安婦に関連した話題を幅広く取り上げている。
 
 本書の内容は大きく第1編と第2編に分かれる。
 第1編では朝鮮人慰安婦問題を取り上げているが、朝鮮人慰安婦がどれだけ悲惨だったかとか、それに、日本軍がどのように責任があるかなどと言う話はあまりなく、朝鮮の植民地支配や当時の朝鮮における売春の実態や、日本人慰安婦の実態や、当時の日本人男性の意識として、外地での強姦をどのように理解していたか、どのような理由で積極的に強姦に走ったかなどを解明することにより、慰安婦の背景を解明している。さらに、西側国での軍慰安婦の実態に触れることにより、より広い視野で、従軍慰安婦問題をとらえようとしているのは、やはり、学会のシンポジウムのためだろう。
 第2編では慰安婦問題が現在日本社会の中で、特に教育の場でどのような位置に置かれているかを中心に解説。

武甲山2015年12月20日

 
 最近、全然登山をしていなかったので、ちょっと足慣らしのつもりで武甲山登山した。登り2時間ぐらいのコース。
 一の鳥居まで車、そこから登山なのだけど、途中林道を歩くところがあって、足が疲れる。登り2時間のコースなので、久しぶりの登山にしては楽勝だったのだけど、途中、何人か抜かされた。これまで、抜かされることはあまりなかったので、足の衰えを感じた。
 写真は、武甲山山頂から群馬側の眺望。
 下山は来た道を降りただけ。

武甲山(2)2015年12月21日

 
武甲山頂に立つ神社の狛犬はオオカミ。

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