本の紹介-アイヌ・モシリ アイヌ民族から見た「北方領土返還」交渉2017年04月17日

    
アイヌモシリを取り戻す会/編『アイヌ・モシリ アイヌ民族から見た「北方領土返還」交渉』 御茶の水書房 (1992/11)
  
 アイヌ民族の立場から、日本の北方領土要求を批判している。
 現在、日本で北方領土と呼ばれている南千島地域は、もともと、アイヌ民族の住む地であり「日本固有の領土」ではない。
  
 本書は3部構成になっている。第1部前半は、アイヌの人たちを中心とした座談会で、主に、千島や北海道は本来アイヌの大地であったことを主張している。第1部後半はアイヌの昔話や思い出話。
 第2部は、ピースボートでえとろふとう・色丹島を訪問して、現地の人たちと交流したアイヌの話。ロシアは多民族国家なので、先住民の権利意識が高く、先住民としてのアイヌに対しては好意的である。
 第3部は、先住民としてのアイヌに関する新聞・雑誌報道のまとめ。
  
 本書の内容は、アイヌの権利を主張するもので一貫しているが、座談会・旅行の報告・新聞報道と多岐にわたっているため、主題がぼやけた感じがする。解説本にしたほうがわかりやすかったのではないだろうか。
  
 ところで、本書は、アイヌの団体の中でも日本政府に批判的な、アイヌ解放同盟の人たちの考えを中心に執筆されているものと思われる。アイヌの代表的な考えかというと、ちょっと違うかもしれない。
    
    
なるほどと思った記述を参考に記載します。
    
山本一昭
 私たちアイヌ民族は、これまでも結束して、両政府に対し、アイヌモシリの復権とアイヌ民族の領有権を掲げて様々な運動を展開してきた。私の同志、故結城庄司氏(アイヌ解放同盟初代委員長)を中心に十数年前AS協会を結成し、ソ連総領事館(現ロシア札幌総領事館)で副総領事と話し合いをもった。その席で、私たちは日本政府や和人が主張する「北方領返還運動」には絶対反対であり、北方諸島の領有権は元々アイヌ民族にあることを強く主張したところ、副総領事も北方諸島はアイヌ民族の大地であることを認識し自由な往来や漁業権を認めた経緯がある。
 今年五月、「アイヌモシリの自治区を取り戻す会」のメンバーとロシア総領事館を訪問し、アブドゥラザコフ総領事に対し、エリツィン大統領とフョードロフ・サハリン州知事に「アイヌモシリを取り戻す会」からのメッセージ並びに趣意書、さらに小冊子「アイヌモシリ」と「アイヌ民族に関する人権啓発写真集」を送っていただくようお願いした。その話し合いの中でも、アイヌ民族の北方諸島への居住や自由往来、漁業を認めている。北方諸島がアイヌ民族の大地であることは巌然たる事実であり、これらの対応は当然ではあるが、日本政府や北海道庁は依然理不尽極まりない姿勢に終始している。(Pⅱ,ⅲ)
    
チカップ美恵子(アイヌ文様刺しゅう家)
 最近、マスコミの使う言葉で気になるのは、「返還」というのもそうなのですが、日本固有の領土である「北方諸島」を現島民は「不法占拠」をしているという言い方です。しかし、不法占拠をしていると言うなら、和人は、現在、もともと私達の島々であるこのアイヌモシリを不法占拠しているのです。そのことを一体どうするのだ、と私は問い掛けたいのです。この「返還」や「不法占拠」という言葉について、私はアイヌ民族として、良心ある多くの和人に真剣に考えていただきたいと思います。
 また、この頃、ニュースを聞いていますと、旧島民が、登記に関する相談を始めています。冗談じゃないですよね。ずっと不法占拠しっ放しでね、代が変わったから登記の名義変更だなんて。こんなとんでもないことが現在着々と進められています。(P28)
  
石井由治
 さて、旧島民のみなさんは、千島が「日本固有の領土」というキャンペーンを展開していますが、もし本当にそれが「日本固有の領土」なら、何も「返還」してもらうことなどありません。みなさんがそこへ行って住めばよいのです。私達アイヌ民族は、北海道、千島、サハリンから成るアイヌ・モシリを日本政府に売った覚えも、貸した覚えもないのだ、ということは阿寒に住んでいる山本エカシや、静内の葛野エカシ、そして二風谷にいる菅野茂さんなどがいつも主張しています。みなさんが本当に、この北海道が日本の土地だと言うならば、国会へ行って調べてみた方が良いです。アイヌ・モシリは、売った覚えも貸した覚えも無いということを、もう一度主張しておきたいと思います。(P138)

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