本の紹介―戦跡が語る悲惨2017年04月23日

  
真鍋禎男/著『戦跡が語る悲惨』沖縄文化社 (2016/4)
     
 本書の内容は沖縄戦の歴史。
 沖縄戦の歴史をかなり詳しく記し、随所に関連する戦跡の写真を掲げ、わかりやすい内容になっている。沖縄戦を詳しく知ろうとする人には、好適な参考書といえるだろう。参考文献も豊富。
  
 沖縄戦の記述には、反戦の立場と、英霊賛美の立場があるが、本書は反戦の立場で一貫している。このため、戦没者を英霊として顕彰したい人や、沖縄戦の犠牲者を戦意高揚に利用したい人には、言葉遣いが気に入らないと思う。
  
 沖縄最南端の喜屋武岬に建てられた平和之塔には、「米軍に対して最後の迎撃を続けしも善戦空しく」「戦闘に協力散華せる住民」と書かれている。実際にこの地に日本軍が追い詰められたときは、すでに敗戦必死の状態で善戦もしていなければ、住民も逃げ惑うだけだったので、碑文は事実ではない。平和之塔を見学した時、戦争賛美のあまりに事実を捻じ曲げる態度に嫌気がさした。本書においても、「観光名所に便乗して戦争賛美を煽る」と平和之塔の記述に対して厳しい評価をしている。
  
 南北の塔に関連して、「住民殺傷の壕追い出し」の項に以下の記述がある。これは、南北の塔の下にあるガマのことだろう。
 真栄平ではいきなり軍刀で母親を斬首のうえ、幼い子供4人を刺殺した。壕に手榴弾を投げ込まれ、その壕に駆けつけようとする父親を切り殺された家族もいる。(P146)
  
 本書の最終章では、平和祈念公園に建てられている各県の塔を取り上げている。ほとんどすべての塔の文言は、沖縄住民の死亡について触れられておらず、将兵の戦死を英霊顕彰としている。本書では、この点について批判的であるが、故人の葬儀の弔辞は、たとえ悪人であっても、なるべく良いことを言うものなので、戦死した将兵を顕彰する記述になるのはある程度仕方ないだろう。
 同じ並びに立つ、空挺隊の碑文や、波の上神社の日本青年会議所の碑文は、英霊顕彰にとどまらず、若い人に対して戦争を鼓舞しているようで、感じが悪い。しかし、本書ではこれらの碑には触れられていない。

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