本の紹介―阿片帝国日本と朝鮮人 ― 2018年07月27日

朴橿/著、小林元裕 ・吉澤文寿・権寧俊/訳『阿片帝国日本と朝鮮人』岩波書店 (2018/3)
戦時中の日本軍による阿片密売については、江口圭一『日中アヘン戦争』(岩波新書)、及川勝三・他『証言 日中アヘン戦争』 (岩波ブックレット) のような、優れた啓蒙書が出版されており、今では多くの人が知るところとなっている。
日本軍が侵出した中国各地では、阿片の密売が盛んだったが、その末端を担ったのが朝鮮人だった。当時、朝鮮は日本の一部だったので、中国に進出した朝鮮人も日本人として保護されていた。日本軍の保護のもと、阿片・ヘロインの卸・流通・密造は日本人が行い、朝鮮人は小売などに携わっていた。
本書は朝鮮人が阿片密売にかかわっていた点を中心に、日本が中国で行った阿片・麻薬密売に対して記載されている。
第1・第2章では、日本軍が中国で行った阿片政策とヘロインを広めた実態を概観する。大正製薬(現在存在する大正製薬とは別会社)がヘロイン密売にかかわっていた点にも触れられている。第3章では、日本が朝鮮半島で阿片生産を行ったことが記される。
第4章以降で、朝鮮人と阿片・ヘロイン密売のかかわりについて示される。地域はそれぞれ「満州」「華北」「ロシア・ウスリー地区」である。
朝鮮は、日本の植民地であったため「日本軍に苦しめられた被害者としての朝鮮人」の視点で記述された歴史書が多い。しかし、一獲千金を夢見て中国に進出し、日本軍の保護のもと犯罪行為に走った朝鮮人がいたことも事実だ。中国に渡った朝鮮人の多くは、まともな職業で豊かな生活を得ることはできなかったため、阿片・麻薬の密売に手を染めた朝鮮人が多かった。「まともな職業につけなかったのだから仕方ないよね」との考えもあるだろう。本書にもそのようなニュアンスが感じられる点はある。しかし、中国に進出した朝鮮人の暗部を明らかにした点で、価値のある内容となっている。
ただし、阿片・麻薬密売での朝鮮人の役割に重点が置かれているため、密売の主体となっていた日本政府や日本軍(関東軍)の役割に対する記述は少ない。この点については、江口圭一や倉橋正直の著書などが参考になるだろう。
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