本の紹介ー日本の阿片戦略2018年08月05日

  
倉橋正直/著『日本の阿片戦略』2005.11 共栄書房
  
 戦前の日本は侵略した中国でアヘンを密売していた。これは、日本国家挙げての国際法犯罪で、秘密に行われたため残された資料はほとんどない。
 江口圭一は発見した資料を使って1985年に『資料 日中戦争期阿片政策―蒙疆政権資料を中心に』を出版、さらに1988年には岩波新書より『日中アヘン戦争』を出版して、日本の中国侵略過程で行われた阿片栽培や販売の実態を明らかにした。江口の研究は中国での阿片政策が主眼だった。
  
 本書は、日本国内での阿片栽培、朝鮮での阿片栽培と毒化状況、中国大陸での阿片栽培と毒化状況と、日本のアヘン政策の全貌を明らかにしたもの。
 日本国内での阿片製造については、阿片栽培・品種改良に成功した二反長音蔵と和歌山での阿片栽培の話のほか、モルヒネ製造・密売の話が詳しい。戦時下でのモルヒネ原料としての阿片が知多半島で女学生により栽培・採集されていた話は戦中の国内でアヘンが広く栽培されていたことを示す話題として興味が持てる。

日本の麻薬密売と済南事件2018年08月06日

 中国に進出した日本人が中国人強盗団の犠牲になった事件として、1937年7月29日の通州事件は、日本の傀儡政権の保安隊員が起こしたものであったにもかかわらず、日本政府は日本人の敵愾心をあおるのに利用した。最近は、実情も背景も知らずに、当時の日本政府の宣伝のままに主張するネット右翼らが散見される。
 通州事件と同様に、日本人が中国人の強盗殺人の犠牲となった事件に済南事件がある。「済南事件」とは、山川出版の高校教科書・詳説日本史など多くの日本史書では第2次山東出兵で起こった日本軍と中国国民党軍との衝突のことを言う。しかし、それに先立って、中国人土賊が日本人に強盗殺人を図った事件のことをいう場合もある。後者は日本史にとってさして重要ではないが、一部のネット右翼らは、中国人に対する敵愾心をあおるために利用できると考えているようだ。この「済南事件」の犠牲者も通州事件同様に阿片・麻薬の密売人だった。通州事件の犠牲者は日本政府の麻薬密売政策に従った面があるが、済南事件の犠牲者は、日本政府の引き上げ勧告を無視して、現場にとどまり麻薬密売で金もうけを図ろうとしていた人たちだった。  
 倉橋正直の著書には、この点にも触れられている。
  
倉橋正直/著『日本の阿片戦略』2005.11 共栄書房 P140-141
  
「十数年前には北清方面に於て、有名な日本人モヒ密売店乱入事件を起し、又、満州及び天津、済南等は巨額の毒物を輸入してゐる事実、昨年の済南事件に於て虐殺せられたる者は殆どがモヒ丸密造者であった。
又、山西省石家荘事件、保定府密売日本人銃殺事件、一昨冬、大連に於ける液体モヒ事件、或は熱河、ハルビン、大連等のモヒ製造工場事件、某製薬会社の山東省阿片専売事件等は委く国際的に知られて居る顕著なる事実である。其他、薬業者のみにても、数知れぬ密輸事件を惹起して常に暗い影を投げてゐる」(菊地酉治「支那阿片問題の一考察」、『支那』、二〇巻一二号、1929年12月、61頁)
  
ここで、菊地酉治は、およそ一〇件にのぼる事件の、ほとんどその名前をあげているだけであって、残念ながら、これらの事件の詳しい内容にまで立ち入って紹介してはいない。本当は、こういった事件の一つひとつを丁寧に調べてゆかねばならない。そうすることによって、この問題に関する、当時の日本側の対応ぶりが鮮やかに浮かびあがってくるのではあるまいか。私自身の今後の課題としたい。
なお、菊地酉治のあげている事件の中で興味があるのは、済南事件(一九二八年)に関する一節である。軍人として、たまたま、同事件に際会した佐々木到一も、次のように同趣旨のことを述べているからである。すなわち、
  
「それを聞かずして居残った邦人に対して残虐の手を加え、その老壮男女十六人が惨死体となってあらわれたのである。(中略)わが軍の激昂はその極に達した。これでは、もはや、容赦はならないのである。もっとも、右の遭難者は、わが方から言えば引揚げの勧告を無視して現場に止まったものであって、その多くが、モヒ、ヘロインの密売者であり、惨殺は土民の手で行われたものと思われる節が多かったのである。」(佐々木到一『ある軍人の自伝』、1963年、普通社、181頁)
  
 二つの史料は、済南事件で「虐殺せられたる者は殆どモヒ丸密造者」であったことを一致して指摘している。おそらく、当時においては、このことは、世間にかなり広く知られていたのではなかろうか。

日本が新種改良したケシ2018年08月07日

 戦前の日本は国を挙げて阿片・麻薬犯罪に手を染めていた。この問題の研究・解説した書籍をいくつか紹介したので、今回は東京都薬用植物園のケシの写真。
 大正時代、和歌山県で、害毒がより強いケシの品種改良に成功した。写真のケシがこの品種。5月ごろ、白い大きな花をつける。

本ー日中 親愛なる宿敵2018年08月09日

    
シーラ スミス/著、伏見岳人・他/訳『日中 親愛なる宿敵: 変容する日本政治と対中政策』東京大学出版会 (2018/3)
   
近年の日中対立ををテーマとした現代史の研究・解説書。
全6章のうち、「第4章 東シナ海の境界画定」「第6章 島嶼防衛」で尖閣問題を扱っている。
   
日中対立関連の近年の歴史的経緯が詳しくまとまっているので、知らない人や忘れた人には便利な本と言えるのだろうけれど、ある程度の年齢の日本人で、日ごろから新聞を読んでいるならば、すでに知っていることが多い。
原書は英語なので、日中関係という国際的に見たらマイナーな話題を広く世界に知らしめるという点では評価できるが、日本語に翻訳したものを日本人が読む価値がどれだけあるのかというと、良く分からない。

本の紹介―堀田善衞/著『時間』2018年08月10日

 
堀田善衞/著『時間』岩波現代文庫 2015/11
  
 久しぶりに、日本の小説を読んだ。何年ぶりだろう。この本は1955年に新潮社から刊行されたものの再版。堀田の著作は『インドで考えたこと(岩波新書)』が有名だけど、『時間』はそれほどでもない。
 本書は日本軍による南京大虐殺がテーマ。南京在住中国知識人を主人公として、彼が見分し考えたことを日記風に記載している。南京大虐殺の時の南京の状況をテーマにしているが、日本軍が民間人を何人殺したとかそういう話はなくて、主人公の心情描写が主体になっている。
  
こんな人が登場する。
主人公:民間人。虐殺されるが奇跡的に助かる。自宅を接収した大尉の下僕となるもスパイをしている。
妻:妊娠中死亡(殺害)
5歳の息子:浮浪児となって残飯をあさっているときに警備日本兵により殺害
姪:日本軍に強姦され性病感染。性病の苦痛を緩和するために使用した麻薬で中毒患者となる。
叔父:日本軍に取り入って麻薬密売に手を染めている
   
堀田の小説でも、日本の中国侵略と麻薬は切り離せないようだ。

沖縄に集中している米軍基地2018年08月11日

   
辺野古米軍基地新設に反対する沖縄県民の象徴であった翁長知事が急逝されました。謹んでお悔やみ申し上げます。
   
現在、在日米軍基地は、沖縄に集中しているが、かつてはそうではなかった。進駐軍が日本を占領すると、主に旧日本軍基地を米軍基地として使用したため、本土に米軍基地の多くが置かれた。朝鮮戦争に伴って、米軍基地の拡大が必要となると、新たな基地用地の提供が求められるなど、米軍基地の拡大が図られたが、各地で強い反対にあった。長野県軽井沢町から群馬県松井田町にかけて浅間妙義演習地が計画されたときは、住民らの抵抗で基地化をまぬがれた。
群馬県安中市松井田町西野牧字恩賀には「妙義米軍基地反対闘争勝利記念碑」が建てられている。(写真)
   
「浅間妙義演習地」反対運動と撤退関連の新聞記事をいくつか掲載しました。
http://nippon.nation.jp/Senkaku/Camp/MyougiTousou.htm
   
本土の米軍基地は撤退していったが、代わって、沖縄に米軍基地が集中するようになった。本土の平安が沖縄の犠牲の上に成り立っているようで、嫌な感じがします。
   
残念ながら、沖縄県の辺野古基地反対闘争は勝利しないように思う。「沖縄には基地が多すぎるのだから新たに基地を増やすべきではない」との主張はもっともだけど、それなら「辺野古に作る代わりに、米軍基地を少し削減すればいいではないか」との主張も正当になるだろう。辺野古基地のみに反対などという中途半端なものではなくて、「沖縄からすべての米軍基地を追い出す」このような闘争をしないと、米軍基地の大幅削減は難しいだろう。「沖縄すべての米軍基地前ゲートで一斉座り込み」などは、できないのかな。

SL2018年08月16日

日曜日、信越線西松井田駅の下をSLが走ります。

本の紹介ーアンジェリス2018年08月21日

 
H・チースリク/編『北方探検記―元和年間に於ける外国人の蝦夷報告書』 吉川弘文館 (1962)
 
江戸時代初期のころ、キリスト教の布教のために東北から北海道を訪れた伝道師ジェロニモ・デ・アンジェリスとカルワーリュの報告書簡の翻訳。二人は商人や工夫に変装して禁止されたキリスト教を伝道したが、最後にはとらえられて火刑となった。
 
第一部:アンジェリスとカルワーリュの経歴、日本での伝道、書簡についての解説。
第二部:アンジェリスの二度の報告書簡とカルワーリュの一度の報告書簡の翻訳。
 この中に、アイヌ語の簡易辞書がある。
第三部:第二部のポルトガル語原文
 
アンジェリス・カルワーリュの書簡はキリスト教伝道に関するものであるが、どのように伝道したのかが詳しく書かれているので、当時のキリスト教禁教の様子が分かる。また、アンジェリスは蝦夷地が大陸の一部なのか島なのかの考察や、蝦夷人の風俗、道東アイヌや西部アイヌとの交易等についての調査報告をしている。これらは、江戸初期の外国人によるアイヌ観察として重要。

本―サハリンを忘れない2018年08月23日

    
後藤悠樹/著, 写真『サハリンを忘れない 日本人残留者たちの見果てぬ故郷、永い記憶』 DU BOOKS (2018/2)
    
 サハリン残留日本人はすでに多くは死んでしまったが、高齢となっても、今なおサハリンで暮らしている人もいる。
 本書は、何人かの残留日本人を訪ねて取材した写真家の記録。写真が多い。記述のほとんどすべては、個人的な話。

本の紹介―ノモンハンの戦い2018年08月24日

シーシキン・他/著、田中克彦/編訳『ノモンハンの戦い』 岩波現代文庫 (2006/1)
    
 ノモンハン事件(ハルハ河戦争)は日本の負け戦だったため、日本では秘密にされ、資料が廃棄た部分が多い。本書は、ソ連側の戦争の経緯を示した資料の翻訳。
 従軍記者だったシーシキンの戦争の報告と、戦争末期に立ち会った作家シーモノフによる従軍記を翻訳・解説している。ノモンハン事件の戦闘の模様を知るうえで必要な基本文献である。

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