トンデモ本? 山田吉彦/著『日本国境戦争』2018年08月31日


山田吉彦/著『日本国境戦争』(2011.7)ソフトバンク新書

 「トンデモ本」とは文字通りトンデモナイ本のことで、科学を装っている似非科学などのこと。

 本書の著者は海洋政策の第一人者。自分が専門としている分野で「トンデモ本」「ヘイトスピーチ本」など書くはずはない・・・と思います。 本ブログのタイトル「トンデモ本?」は、トンデモナイ説を唱えるはずのない人の本にしては、疑問点が多々あるので「?」をつけた次第です。

 本書のメインは、尖閣海域における対中国防衛問題である。近年、中国漁船や公船が東シナ海の尖閣周辺海域に出没することが多くなっているので、海洋政策の専門家がこの分野に関する啓蒙書を出版することは理にかなったことだ。しかし、妄想や、虚偽によって、国民の危機意識を高めるのならば、それはまともな学者の本ではなくて、いわゆるトンデモ本と言うことになる。

 本書P30~31には中国漁船が尖閣海域に出漁しているのは、中国政府が紛争を発生させるために漁民に金を払って漁をさせていると書かれている。著者の説では、尖閣周辺海域は出漁しても元が取れないとのことだ。これらページの全文を参考のために最後に記載する。

 ところが、2010年9月24日の朝日新聞デジタルによると、尖閣沖に出漁した中国船は、一度の漁でカワハギが40トン近くとれることもあり、中国では1キロ90円弱で売れるそうだ。1回の出漁で300万円以上ならば漁場としての魅力は大きい。
 それにしても、中国漁船が500㎞離れた尖閣近海で漁業することの経済性に何の不思議があるのだろう。日本のサンマ漁が500㎞以上離れた海域で漁をすることは珍しくない。
 また、北朝鮮のボロ船が、北朝鮮から500km程離れた日本海の大和堆に出漁し、日本の排他的経済水域でイカの密漁をしていることがある。
 カワハギはハタやタイのような高級魚ではないけれど、イカよりも少し高級で、サンマよりもだいぶ高級だ。イカ漁やサンマ漁が500㎞程度以上離れた海域に出漁しているのだから、カワハギ漁が500㎞程度離れていても、不思議はない。
 北朝鮮漁船が日本海でイカの密漁をしていることや、沿岸から遠く離れた海域でサンマ漁がおこなわれていることなど、小学生でも知っていることだと思っていたので、本書の記述は理解できない。

 今年の夏、中国政府は漁民に対して尖閣諸島に近付かないよう指示したとの報道があった。
(参考)2018/08/16 テレ朝ニュース
 中国が16日に日本の尖閣諸島周辺の漁を解禁しますが、中国当局は漁師らに尖閣諸島に近付かないよう指示したことが分かりました。
 2年前には中国の漁船300隻ほどが尖閣諸島周辺に押し寄せました。しかし、日中関係の改善が進んでいることを背景に、今年は地元の漁業当局が尖閣諸島に近付かないよう指示しました。漁師からは漁を望む声も上がっています。
 漁師:「(Q.当局が尖閣周辺に行くなと?)そうです」「(Q.尖閣で漁ができたら?)行きますよ」「あそこは魚が多くて金がたくさんもうかるから」
 10月の開催も視野に調整が進む日中首脳会談に影響することから、日中両政府ともに漁船の動きに警戒を強めています。

 尖閣周辺海域の漁業は魚がたくさんいるので儲かるとの漁民の証言がある。
 この本の著者・山田吉彦氏の説明は、一体どういうことなのだろう。やはり、トンデモ説満載のトンデモ本なのかな。

 最後に、本書P30~31に書かれた「中国漁船が尖閣諸島周辺海域で行う漁の意味」の節を掲載する。
中国漁船が尖閣諸島周辺海域で行う漁の意味
 尖閣事件の中国漁船は、決して普通の漁船ではない。背後には中国当局が深く関与していたと考えられる。
 このことは、2010年8月以降に尖閣諸島周辺海域に現れるようになった申国漁船の漁の仕方を見ればよくわかる。彼らは中層トロール網で漁をしていた。漁労の状況を見る限り、大漁であるとは考えられない。獲れているのはカワハギの類など小さな魚ばかりで、通常は高値で売買される魚種ではない。
 では、どうして普通は儲からないはずの漁に彼らは出てくるのだろうか。海上保安庁の関係者の話では、中国漁船が獲った安値の魚をわざわざ「高く買う人」がいるらしい。つまり、獲った魚はなにがしかの機関がちゃんと高く買い上げるという仕組みの上で、中国漁船が送り出されているのである。
 あくまでも表向きは企業形態で、民間の事業として漁船が出ているが、背後には巧妙な仕組みがあり、中国人漁師たちの儲けを担保しているというわけだ。すべては、尖閣諸島周辺海域に中国漁船を出漁させ、「経済活動」の実績をつくるための仕組みだ。
 中国漁船にとつて、普通は尖閣諸島周辺海域での漁は儲からないので、彼らは昔から尖閣諸島のずっと北の海域で漁をしてきた。
 中国大陸から見て東側の海域で、ちょうど日中中間線(日本が主張する日中両国の排他的経済水域の中問線)を跨いだぐらいのところに漁場がある。
 この海域は、日中漁業協定により、両国が合意した漁獲量の範囲であれば、漁船が中間線を越えてもよいとされ、互いに自国の漁船を監督することになっている。日本はこの海域での外交的衝突を嫌って、中国に譲歩した漁業協定を結んでいる。(本書 P30,31)


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