韓国人強制徴用2018年11月01日

 2018年10月30日、韓国の最高裁では、戦時中の強制徴用に対して、新日鉄住金に損害賠償支払いを命ずる判決が確定した。
 この判決について、日本国内では「国際法違反」等々の批判が相次いでいる。韓国最高裁の判決は、日本政府の判断と異なっており、また日本の最高裁判例とも異なっているので、日本国内では受け入れられない判断であることは確かだ。しかし、現実には、三菱マテリアルや日本鋼管のように、韓国人や中国人徴用工に対して日本企業が和解金を支払った例があるので、新日鉄住金が損害賠償を支払うべきとの考えが間違っているとは言えない。日本の裁判所でも、下級審では損害賠償支払いを命じた判決もあるので、今回の韓国最高裁判決と同様な考えが日本にあることは確かだ。

 中国人徴用工が西松建設を訴えた裁判では、広島高裁判決で、中国人徴用工の訴えが認められ、西松建設に損害賠償支払いが命じられた。上告審(最高裁判所第二小法廷)では高裁判決を破棄し、中国人徴用工敗訴の判決が確定した。
 しかし、最高裁判決の最後に以下の見解が示されたため、裁判で勝訴した西松建設は中国人徴用工との間で和解交渉を行い、和解金を支払うことで最終解決している。
平成19年4月27日 最高裁判所第二小法廷 判決
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/580/034580_hanrei.pdf

(判決要旨)
 日中戦争の遂行中に生じた中華人民共和国の国民の日本国又はその国民若しくは法人に対する請求権は、「日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明」5項によって、裁判上訴求する権能を失ったというべきである。

(判決に付加された裁判所の見解)
 サンフランシスコ条約の枠組みにおいても、個別具体的な請求権について債務者側において任意の自発的な対応をすることは妨げられないところ、本件被害者の被った精神的・肉体的苦痛が極めて大きかった一方、上告人は前述したような勤務条件で中国人労働者らを強制労働に従事させて相応の利益を受け、更に前記の補償金を取得しているなどの諸般の事情にかんがみると、上告人を含む関係者において、本件被害者らの被害の救済に向けた努力をすることが期待されるところである。
 注)債務者、上告人:西松建設のこと  被害者:中国人徴用工のこと

 西松建設は日本の裁判で勝訴したが、中国人徴用工に解決金を支払うことで和解した。新日鉄住金も解決金を支払って和解をすればよかったのに。西松建設に比べて新日鉄住金は金に汚い会社なのだろうか。

本の紹介―人はなぜ「新宗教」に魅かれるのか?2018年11月02日

   
井上順孝/著『人はなぜ「新宗教」に魅かれるのか? 』三笠書房 (2009/4)
   
 著者は宗教学者で、いろいろな宗教に対する幅広い解説書を出版している。本書は、『井上順孝・他/編 新宗教辞典<本文編>』を簡略化したような内容で、日本の新興宗教を黒住教・天理教から創価学会・真如苑・オウム真理教・幸福の科学まで網羅的に40団体ほど取り上げ、それぞれについて数ページの解説をしている。さらに、日本の新興宗教がどのようにして起こったのか、どのような活動をしているのか、資金源はどうなのかなど、細かい内容についても、それぞれ数ページづつ解説しているの。このため、本書を読めば、日本の新興宗教について一通りのことは理解できる。
 本書のタイトルは”人はなぜ「新宗教」に魅かれるのか?”であるが、この問題についての解説は数ページなので、「なぜ魅かれる」に対して掘り下げた説明があるわけではない。

韓国人徴用工の請求権は消滅していない2018年11月04日

 2018年10月30日、韓国の最高裁では、戦時中の強制徴用に対して、新日鉄住金に損害賠償支払いを命ずる判決が確定した。
 この判決について、日本国内では「国際法違反」等々の批判が相次いだ。しかし、徴用工の請求権が条約により消滅したわけではない。
 一般に、日本国の不法行為で損害を受けた外国人(個人)は、日本国に対して損害賠償を請求することができる。これを「外交保護権」と言う。しかし、日本と韓国・中国の間では条約により外交保護権は消滅した。このため、韓国人・中国人の元徴用工が外交保護権に基づき日本政府に損害賠償請求することはできない。
  
 条約により、外交保護権は消滅したが、個人の請求権が消滅したわけではない。
 日本鋼管、三菱マテリアル、鹿島建設、西松建設などは、中国人・韓国人の旧徴用工らの戦時中の労働に対し、解決金を払うことで和解した。旧徴用工の請求権が消滅しているのならば、和解金を支払うと、株主から訴えられる恐れがあるが、請求権は消滅していないので、企業側が和解金を支払うことに、何の問題もない。
 元朝鮮女子挺身隊の韓国人女性に、2009年、厚生省社会保険庁は厚生年金脱退手当として99円を支払った。また、2015年には日本年金機構は厚生年金脱退手当として199円を支払った。日韓の条約で外交保護権は消滅したが、個人の請求権は消滅していないので、厚生省や年金機構が韓国人に所定の年金を支払うことは違法ではない。
  
 条約により個人の請求権が消滅していないことは、国会での政府答弁でも確認されている。
平成03年08月27日  参議院予算委員会
○政府委員(柳井俊二君) ただいまアジア局長から御答弁申し上げたことに尽きると思いますけれども、あえて私の方から若干補足させていただきますと、先生御承知のとおり、いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。
その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。
平成03年12月05日 参議院国際平和協力等に関する特別委員会 R> ○矢田部理君 ・・・例えば日韓請求権協定。日韓両国が国家として持っている外交保護権を相互に放棄はしたけれども、個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない。したがって、請求権が残っているというのが日本政府の立場なんです。それはお認めになりますか。
○政府委員(柳井俊二君) 政府間で今までいろいろな取り決めをしておりますけれども、そのいわゆる請求権の放棄の意味するところは外交保護権の放棄であるという点につきましては、先生仰せのとおりであります。したがいまして、例えば韓国政府が韓国の国民の請求権につきまして政府として我が国政府に問題を持ち出すということはできない、こういうことでございます。ただ、個人の請求権が国内法的な意味で消滅していないということも仰せのとおりでございます
平成04年03月09日 衆議院予算委員会

○柳井政府委員 先ほども申し上げましたが、この協定上措置をとって、そして権利を消滅させる等の国内的な処理をするということの対象は、いわゆる「財産、権利及び利益」と協定で称しているものでございます。合意議事録で了解が確認されておりますように、このような「財産、権利及び利益」というのは、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうこと」が定義されて了解されているわけでございます。
 いわゆる慰謝料請求というものが、いわゆるクレームというものがどのようなものと国内法上観念されているかにつきましては、私必ずしもつまびらかにいたしませんけれども、いわゆるこの「財産、権利及び利益」というものには該当しないものが多々あろうと思います。そのようなものにつきましては、この協定上は、いわゆる財産、権利、利益というもの以外の請求権というふうに観念しているわけでございまして、そのような請求権につきましては、国内的に、国内法的に処理をとるということはここでは想定しておりませんけれども、いずれにせよ、そのような問題を国家間で外交的に取り上げるということはこの協定の締結後できないというのが当時の日韓間の合意であったというものでございます。

○柳井政府委員 当時の協定上の処理といたしましては先ほど申し上げたとおりでございまして、いわゆるクレーム、財産権以外の、実体的権利以外のクレームにつきましては、外交保護権の放棄という形で決着を図る一方、それと並行して経済協力というものを行ったわけでございます。いわゆる無償三億、有償二億という経済協力を供与いたしまして、そういう全体の合意によってこの問題も含めて、日韓国家間では最終的に解決したという処理を行ったわけでございます。
 そして慰謝料等の請求につきましては、これは先ほど申し上げたようないわゆる財産的権利というものに該当しないと思います。そのようなものについては、いわゆる財産的な権利につきましては国内法的な処理をしても文句を言わないという規定があるわけでございますが、それ以外のものについては外交保護権の放棄にとどまるということで当時決着をした。これはいわゆる請求を提起するという地位までも否定しないという意味においてそのような権利を消滅させていないわけでございますが、しかしそれが実体的な法律上の根拠を持った権利である、実体的に法律上の根拠を持った財産的価値を認める権利であるというふうには当時観念されなかったろうと思います。

○柳井政府委員 先ほども申し上げましたとおり、我が国としては、この協定上外交保護権を放棄した、そして関係者の方々が訴えを提起される地位までも否定したものではないということを申し上げたわけでございますが、しからば、その訴えに含まれておりますところの慰謝料請求等の請求が我が国の法律に照らして実体的な根拠があるかないかということにつきましては、これは裁判所で御判断になることだと存じます。ですから、その点についてはちょっと誤解があるといけませんので補足させていただきます。
平成12年03月14日 参議院法務委員会
○福島瑞穂君 ・・・それで、今、日韓協定の話がありましたが、一九九一年八月二十七日、柳井外務省条約局長は国会答弁で、日韓両国政府が国家として持っている外交保護権を相互に放棄したというだけにすぎず、個人の請求権を消滅したものではないと答えておりますが、いかがですか
○政府参考人(細川清君) 柳井条約局長の答弁は承知しておりまして、私どももそのとおりだと考えております

まとめると、以下のようになります。
 個人の請求権そのもの・・・あり
 日本国に対して損害賠償を請求する権利・・・なし
 日本の司法制度で裁判上訴求する権能・・・なし(日本の法に従って日本の裁判所が判断する)
 個別具体的な請求権について債務者側において任意の自発的な対応をする・・・あり
 韓国の司法制度で裁判上訴求する権能・・・日本が決めることではない(韓国の法に従って韓国の裁判所が判断する)

本の紹介ー日本軍兵士2018年11月06日


吉田裕/著『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)』中央公論新社 (2017/12)

 歴史系の新書としては、かなり読まれている本です。青少年から中年世代の多くの人に読んでもらいたい。

 本の内容は、太平洋戦争の日本軍の戦死者状況を描いたもので、戦死者の多くは戦闘による死亡ではなくて、栄養失調・餓死や、装備・医療の不備による病死だったこと、このような原因は、精神論重視の作戦に問題があったことが書かれている。
 ある程度年配の人ならば、自分の親や教師世代の人から戦争体験を聞き、本書に書かれた内容の多くは既知の事実なので、本書の記述には物足りなさを感じるかもしれない。ただし、本書は歴史学者の記述なので、資料に基づき精密に描いているので、この点は参考になる。
 現在、青少年から中年世代の人は学生時代の歴史教師も戦後世代だったはずで、直接戦争体験を聞く機会がなかった人も多いだろう。このような人が、本書を読んで戦争の実態について正しい知見を持つことは、今後の日本社会が誤った方向に動かされることを阻止するためにも有用だ。
 すでに還暦を過ぎた著者が本書を執筆した目的は、若い世代の人たちに戦争の実態を知ってほしかったことなのだろう。

本書に、輸送船の速度と兵員のカロリーについて数字が載せられていた。
 日本の貨物船の性能も問題だった。アジア・太平洋戦争中、日本は急増する船舶需要に対応するため、多数の戦時標準船を建造した。設計・建造の簡易化、工期の短縮、資材や労働力の節約などによって、建造数を増加させることを最優先の課題とした低性能の船舶である。
 戦時標準船にはいくつかのタイプがあったが、貨物船の航海速度を見てみると、第一次戦時標準船では、速度が最大のタイプが12.3ノット、最低のタイプが10ノット、第二次戦時標準船では最大が10ノット、最低が7ノット、第三次戦時標準船では、最大が14ノット、最低が7.5ノット、速度を最優先した第四次戦時標準船でも18ノットである(『戦時造船史』)。(P45)

 陸軍省医務局が、敗戦後にGHQ(連合国最高司令官総司令部)に提出した報告書、「日本武装軍の健康に関する報告」によれぽ、内地部隊の兵士に対する一日の給養は、合計三四〇〇カロリー〔現在の表示法ではキロカロリー〕を標準としていた。しかし、国内の食糧事情の悪化のため、一九四四年九月以降、合計二九〇〇カロリーに減じられた。
 その結果、兵士の体重は、「戦前平均」の六〇キロからアジア・太平洋戦争の末期には五四キロにまで低下している。こうしたなかで、陸軍は農耕や家畜の飼育など、食糧に関する自給自活方針を強化していった(前掲、「アジア・太平洋戦争の戦場と兵士」)。(P98)

11月7日2018年11月07日

11月7日は革命記念日

本―『人間革命』の読み方2018年11月08日

  
島田裕巳/著『人間革命 の読み方』KKベストセラーズ(2017/12)
  
 以前から、書店の宗教コーナーの一角で幅を利かせている『人間革命』の存在は知っていたが、池田大作の教えを説いたものだろう程度に思い、特に興味を持つことはなかった。
  
 本書は『人間革命』の解説。『人間革命』は池田大作の説教ではなくて、創価学会教祖の伝記だそうです。創価学会に興味はないので、教祖の伝記など全く興味はなく、今後とも読むことはないな。ただし、人間革命は映画にもなっていて、丹波哲郎が主演で、あおい輝彦が池田大作を演じているそうなので、こちらは、機会があったら見たいとも思います。 
 本書は、宗教学者・島田裕巳の著書なので、創価学会のヨイショ本ではなく、また、創価学会に敵意を抱く記述でもないように感じます。ただし『人間革命』を読んだことがないので、違うかもしれない。

本の紹介―新人類と宗教 若者はなぜ新・新宗教に走るのか2018年11月09日

 
室生忠/著『新人類と宗教 若者はなぜ新・新宗教に走るのか』三一書房(1986.10)

 1970年代ごろからのスピリチュアルブームで、若者の中には新興宗教・カルト教団などに入信するものがあった。この傾向は1980年代になると一層強まったが、1990年代にオウム真理教事件が起こると、新興宗教のいかがわしさ・恐ろしさが認識され、若者の新興宗教ブームは終わった。

 本書は1980年代に書かれた本で、以下の10のマイナーな新興宗教などを取り上げている。
  クリシュナ意識国際協会
  世界真光文明教団
  小岩キリスト栄光教会
  日本ラエリアン・ムーブメント
  スーフィ瞑想センター
  自由精神開拓団
  サビアン・トランスパーソナル・アストロロジー
  国際心理開発協会
  高千穂神霊教団(日本聖道教団)
  太陽を信じるピラミッドの会
 
 著者は統一教会に入信した若者を親が奪回させようとした時に、統一教会側に立って奪回阻止の論陣を張り、統一教会を擁護したフリージャーナリスト。本書に取り上げられた教団の中には、洗脳により財産を巻き上げられたとか、教祖が若い女性信者に性行為を強要している等の黒い噂のある教団もあるが、本書ではそのようなことは書かれていない。
 本書の内容は、教団でどのような宗教行為が行われているのか、入信の動機は何か、若者が教団に入信した社会的背景はどのようなものか、などが書かれており、いわば教団の表の顔を説明したものである。この本を読んで、安易に入信しないほうが良い教団もあるので、注意が必要だ。

本の紹介ー新宗教の解読2018年11月10日


    井上順孝/著『新宗教の解読 (ちくまライブラリー)』筑摩書房 (1992/11)

 本書は1992年に出版された新興宗教の解説本。幕末以降、新興宗教が起こり信者を集めた社会的な状況を説明することに主眼が置かれている。さまざまな新興宗教を取り上げており、記述にまとまり感がなく読みにくい。新興宗教の中には、悪質な事件を起こし消滅したものもあり、新興宗教は淫祀邪教視されることも多い。本書では淫祀邪教視に対して批判的で、新興宗教を肯定的にとらえている。
 当時、若者を囲い込み、家族との間でトラブルが起こっていたオウム真理教について、以下のように家族の責任であるかのように記述している。オウム被害者や家族から見たら、全く受け入れがたい暴論だろう。
日本社会における家族の実質的崩壊現象を一つの震源にしている可能性はないだろうか。新宗教が若者の間で流行っていると言われるとき、たんに若者が宗教に関心を寄せているということだけを意味しているのではなさそうである。親がまったく関わり知らぬところで宗教に目を向けてしまった若者、という意味が混入していることがある。子供が親を捨て家を捨てて宗教に走った、という類の騒動がもちあがるとき、そこには、子供の精神生活にほとんど影響を持ち得なかった親たちの姿が見え隠れする。一人立ちする年齢になった子供に対し、「宗教に騙されるな」と叫んでみても、効果があるかどうか。(P206)
 若者がオウムに取り込まれるきっかけには、家族関係の問題を含めて、社会のいろいろな問題があったことは間違いないだろうが、そのようなところに付け込んで、信者に犯罪を強いたり、殺害したり、覚せい剤中毒にしたのがオウム真理教だった。新興宗教には、このような恐ろしいものがあることを、しっかりと認識しておく必要がある。
 本書出版後、1995年オウム真理教、1999年明覚寺、2000年法の華、2011年神世界と教祖が逮捕されている。
 新興宗教の悪質性が改めて認識されるようになった今、新興宗教に好意的な本書の記述をそのまま受け入れることはできないが、新興宗教の表の面のみを見たときの話として、あるいは、新興宗教教団側の宣伝の一部として読んでみるならば、本書の記述にも、一定の意味はあるかもしれない。


 本書の著者は新興宗教に詳しい宗教社会学者だが、専門外とはいっても、日本の既存仏教の教義の概要程度は知っているはずだと思うのだが、そう考えると、ちょっと信じがたい記述がある。
 新宗教批判が、宗教否定の上に展開されているのなら、むしろ話はスッキリする。死後の世界などというものはない。霊能力とか霊界などあり得ない。・・・こうした立場に立つなら、新宗教の教えや活動を徹底的に批判したとしても、筋道は通っている。ただし、こうした批判になると、新宗教だけがターゲットということはなくなる。浄土系の宗派が説く浄土の存在は、この科学時代にどんな説得力をもつのか。(P218)
 浄土真宗では極楽浄土に成仏できると説くが、霊魂が実在するとか別世界に浄土があるとか、そのようなオカルトチックな教えではない。浄土真宗の説く極楽浄土とは生きている現在の心のありようの話であって、現代科学と何ら矛盾するものではない
 真如苑のような新興宗教では、霊能力があるかのように欺瞞して、先祖の霊が苦しんでいて供養料を払わないと祟ると脅している。このように、浄土真宗の霊に対する態度と新興宗教の霊に対する態度とは全く異なる。

 真如苑をはじめとした新興宗教では「先祖の霊が祟る」と信者を脅すことが多いが、既存仏教の多くは、これに批判的であることが、以下の本に示されている。

安斎育郎/著『霊はあるか 科学の視点から』 講談社 (2002/9)

 ところが、本書では「霊の崇り」などが既存の知見であるように書いたうえで、新興宗教を擁護している。詐欺師の擁護はやめてほしい。
 霊の崇り、成仏していない先祖、カルマを背負った存在。そうした想念は、人の心を暗く重くする。人生に望みがもてない、社会を肯定的に見られない、漠然たる不安感。これも希望のない毎日を導く。たとえ一部の人に対してであれ、こうしたものを解決していく機能を、新宗教はもった。それが一定程度有効であったからこそ、このシステムは隆盛の一途をたどった。そう考えるのが妥当であろう。(P264)
 「霊の崇り」「成仏していない先祖」など有りもしない嘘をついて金をだまし取るのが新興宗教や真言宗醍醐派本覚寺の手口であり、このような詐欺に対処するのは、警察権力や教育の責任範囲である。警察の対応が後手に回っているからと言って、その責任が既存宗教にあるわけではない。

本の紹介―確率論と私2018年11月13日

  
伊藤清/著『確率論と私 (岩波現代文庫)』岩波書店 (2018/10)
  
本書は2010年に出版された本の文庫版。
 近代確率論を樹立した人と言えば、コルモゴルフ、レヴィ、伊藤清が挙げられる。レヴィの回想録の翻訳が岩波書店から出版されていたが、今は絶版になっているようだ。
  
 本書は、伊藤清の確率論研究者としての回想で、既出の20のエッセイを収録している。数学の話なので、数学の知識がないと読みにくいだろう。特に「確率解析の研究を振り返って」と「<付録>確率微分方程式」の項は大学で確率論を勉強したことがない人には理解できないと思う。これ以外の19のエッセーは確率論の専門知識がなくても、大学の教養数学程度の知識があれば、おおむね理解できるはずだ。
 数学研究は他の自然科学から独立して純粋数学になっていることも多いが、伊藤清は、数学と自然科学の連携の重要性を主張している。本書を読んで一番強く感じることはこの点なので、伊藤清が若手数学研究者に期待していたことは、他分野との連携により数学を豊かにしてほしいとのことだったのだろう。他分野からの知見をもとに新たに数学を発展させることができる研究が理想ではあろうが、実際にはよほどの知識がないと難しい。
  
 伊藤理論は金融工学に必須な基礎理論であるが、前提条件を考慮せずに、伊藤理論を単純に金融工学に当てはめ、大規模なバブル経済とバブルの崩壊を招いた。本書の中で、伊藤清は、若手研究者が大挙して金融工学へ流れることを懸念している。

本の紹介ー神社崩壊2018年11月15日

  
島田裕巳/著『神社崩壊(新潮新書)』 新潮社 (2018/8)
 
 最近、宗教関係の本の紹介が続きます。
 
 2017年、富岡八幡宮で旧宮司が現宮司を殺害し、自殺する事件があった。本書では最初にこの事件に触れたあと、現在、神社が置かれている状況を解説する。神社のうち、ごく一部が儲かっており、多くの神社は厳しい状況に置かれていることを説明する。
 
 本書でページを割いているのは、神社本庁の説明である。神社本庁は多くの神社を管轄下に置いているが、本書では、神社本庁とは何であるのか、神社本庁の権力構造、時代錯誤な戦前回帰志向、日本会議にみられる政治関与など、神社本庁に批判的な観点での記載が多い。
 
 日本の人口減少に伴って、神社も氏子減少に悩まされているところが多い。また、社会の変化に伴って、神社に対する尊崇の念も薄らいでいる。本書では、このような問題にも触れられている。

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