韓国人徴用工の請求権は消滅していない2018年11月04日

 2018年10月30日、韓国の最高裁では、戦時中の強制徴用に対して、新日鉄住金に損害賠償支払いを命ずる判決が確定した。
 この判決について、日本国内では「国際法違反」等々の批判が相次いだ。しかし、徴用工の請求権が条約により消滅したわけではない。
 一般に、日本国の不法行為で損害を受けた外国人(個人)は、日本国に対して損害賠償を請求することができる。これを「外交保護権」と言う。しかし、日本と韓国・中国の間では条約により外交保護権は消滅した。このため、韓国人・中国人の元徴用工が外交保護権に基づき日本政府に損害賠償請求することはできない。
  
 条約により、外交保護権は消滅したが、個人の請求権が消滅したわけではない。
 日本鋼管、三菱マテリアル、鹿島建設、西松建設などは、中国人・韓国人の旧徴用工らの戦時中の労働に対し、解決金を払うことで和解した。旧徴用工の請求権が消滅しているのならば、和解金を支払うと、株主から訴えられる恐れがあるが、請求権は消滅していないので、企業側が和解金を支払うことに、何の問題もない。
 元朝鮮女子挺身隊の韓国人女性に、2009年、厚生省社会保険庁は厚生年金脱退手当として99円を支払った。また、2015年には日本年金機構は厚生年金脱退手当として199円を支払った。日韓の条約で外交保護権は消滅したが、個人の請求権は消滅していないので、厚生省や年金機構が韓国人に所定の年金を支払うことは違法ではない。
  
 条約により個人の請求権が消滅していないことは、国会での政府答弁でも確認されている。
平成03年08月27日  参議院予算委員会
○政府委員(柳井俊二君) ただいまアジア局長から御答弁申し上げたことに尽きると思いますけれども、あえて私の方から若干補足させていただきますと、先生御承知のとおり、いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。
その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。
平成03年12月05日 参議院国際平和協力等に関する特別委員会 R> ○矢田部理君 ・・・例えば日韓請求権協定。日韓両国が国家として持っている外交保護権を相互に放棄はしたけれども、個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない。したがって、請求権が残っているというのが日本政府の立場なんです。それはお認めになりますか。
○政府委員(柳井俊二君) 政府間で今までいろいろな取り決めをしておりますけれども、そのいわゆる請求権の放棄の意味するところは外交保護権の放棄であるという点につきましては、先生仰せのとおりであります。したがいまして、例えば韓国政府が韓国の国民の請求権につきまして政府として我が国政府に問題を持ち出すということはできない、こういうことでございます。ただ、個人の請求権が国内法的な意味で消滅していないということも仰せのとおりでございます
平成04年03月09日 衆議院予算委員会

○柳井政府委員 先ほども申し上げましたが、この協定上措置をとって、そして権利を消滅させる等の国内的な処理をするということの対象は、いわゆる「財産、権利及び利益」と協定で称しているものでございます。合意議事録で了解が確認されておりますように、このような「財産、権利及び利益」というのは、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうこと」が定義されて了解されているわけでございます。
 いわゆる慰謝料請求というものが、いわゆるクレームというものがどのようなものと国内法上観念されているかにつきましては、私必ずしもつまびらかにいたしませんけれども、いわゆるこの「財産、権利及び利益」というものには該当しないものが多々あろうと思います。そのようなものにつきましては、この協定上は、いわゆる財産、権利、利益というもの以外の請求権というふうに観念しているわけでございまして、そのような請求権につきましては、国内的に、国内法的に処理をとるということはここでは想定しておりませんけれども、いずれにせよ、そのような問題を国家間で外交的に取り上げるということはこの協定の締結後できないというのが当時の日韓間の合意であったというものでございます。

○柳井政府委員 当時の協定上の処理といたしましては先ほど申し上げたとおりでございまして、いわゆるクレーム、財産権以外の、実体的権利以外のクレームにつきましては、外交保護権の放棄という形で決着を図る一方、それと並行して経済協力というものを行ったわけでございます。いわゆる無償三億、有償二億という経済協力を供与いたしまして、そういう全体の合意によってこの問題も含めて、日韓国家間では最終的に解決したという処理を行ったわけでございます。
 そして慰謝料等の請求につきましては、これは先ほど申し上げたようないわゆる財産的権利というものに該当しないと思います。そのようなものについては、いわゆる財産的な権利につきましては国内法的な処理をしても文句を言わないという規定があるわけでございますが、それ以外のものについては外交保護権の放棄にとどまるということで当時決着をした。これはいわゆる請求を提起するという地位までも否定しないという意味においてそのような権利を消滅させていないわけでございますが、しかしそれが実体的な法律上の根拠を持った権利である、実体的に法律上の根拠を持った財産的価値を認める権利であるというふうには当時観念されなかったろうと思います。

○柳井政府委員 先ほども申し上げましたとおり、我が国としては、この協定上外交保護権を放棄した、そして関係者の方々が訴えを提起される地位までも否定したものではないということを申し上げたわけでございますが、しからば、その訴えに含まれておりますところの慰謝料請求等の請求が我が国の法律に照らして実体的な根拠があるかないかということにつきましては、これは裁判所で御判断になることだと存じます。ですから、その点についてはちょっと誤解があるといけませんので補足させていただきます。
平成12年03月14日 参議院法務委員会
○福島瑞穂君 ・・・それで、今、日韓協定の話がありましたが、一九九一年八月二十七日、柳井外務省条約局長は国会答弁で、日韓両国政府が国家として持っている外交保護権を相互に放棄したというだけにすぎず、個人の請求権を消滅したものではないと答えておりますが、いかがですか
○政府参考人(細川清君) 柳井条約局長の答弁は承知しておりまして、私どももそのとおりだと考えております

まとめると、以下のようになります。
 個人の請求権そのもの・・・あり
 日本国に対して損害賠償を請求する権利・・・なし
 日本の司法制度で裁判上訴求する権能・・・なし(日本の法に従って日本の裁判所が判断する)
 個別具体的な請求権について債務者側において任意の自発的な対応をする・・・あり
 韓国の司法制度で裁判上訴求する権能・・・日本が決めることではない(韓国の法に従って韓国の裁判所が判断する)

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