本の紹介―確率論と私2018年11月13日

  
伊藤清/著『確率論と私 (岩波現代文庫)』岩波書店 (2018/10)
  
本書は2010年に出版された本の文庫版。
 近代確率論を樹立した人と言えば、コルモゴルフ、レヴィ、伊藤清が挙げられる。レヴィの回想録の翻訳が岩波書店から出版されていたが、今は絶版になっているようだ。
  
 本書は、伊藤清の確率論研究者としての回想で、既出の20のエッセイを収録している。数学の話なので、数学の知識がないと読みにくいだろう。特に「確率解析の研究を振り返って」と「<付録>確率微分方程式」の項は大学で確率論を勉強したことがない人には理解できないと思う。これ以外の19のエッセーは確率論の専門知識がなくても、大学の教養数学程度の知識があれば、おおむね理解できるはずだ。
 数学研究は他の自然科学から独立して純粋数学になっていることも多いが、伊藤清は、数学と自然科学の連携の重要性を主張している。本書を読んで一番強く感じることはこの点なので、伊藤清が若手数学研究者に期待していたことは、他分野との連携により数学を豊かにしてほしいとのことだったのだろう。他分野からの知見をもとに新たに数学を発展させることができる研究が理想ではあろうが、実際にはよほどの知識がないと難しい。
  
 伊藤理論は金融工学に必須な基礎理論であるが、前提条件を考慮せずに、伊藤理論を単純に金融工学に当てはめ、大規模なバブル経済とバブルの崩壊を招いた。本書の中で、伊藤清は、若手研究者が大挙して金融工学へ流れることを懸念している。

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