本の紹介-歴史修正主義とサブカルチャー2019年02月18日

   
倉橋耕平/著『歴史修正主義とサブカルチャー』 青弓社 (2018/27)
  
 本書は歴史修正主義が社会に蔓延している原因を情報社会学の立場から解明している。歴史修正主義の内容や、主張が非科学的であることに対しては、本書の主テーマではない。本書は一般に対する啓蒙書ではなくて学術書。このため、著述内容も厳密で参考文献も豊富。記述内容が高度であるため、漫画しか読んだことがないようなネット右翼の人たちには理解困難だろう。
 
 1970年代ごろから、南京大虐殺は無かったとする主張があった。「南京大虐殺は無かった」「被害者は少ない」との主張をする人は、神主・漫画家・作家・右翼機関紙編集者などが多く、「南京大虐殺はあった」とする人は、歴史学者(大学教授)・大手新聞の記者などが多いことが不思議だった。学者で「南京大虐殺は無かった」に近い主張をしている亜細亜大学の東中野氏の研究は、東京地裁判決で「とうてい学術研究に値しない」と厳しい批判を受けていた。
  
 歴史修正主義について、本書では次の指摘をしている。「学問のフィールドでは教官も評価も得ていない」「学術出版も距離を置いている」「歴史修正主義と親和性が高いのは、ビジネス系の自己啓発書・保守論壇誌・週刊誌・漫画などの商業出版とインターネット」であり(P13)、また、歴史修正主義の論客たちは「論じる対象に対する学問的裏付けに精通していない」「専門的な取材を独自に継続している専門家ではない」(P58)。
 
 本書の指摘で、なるほどと思ったのは、第2章の「歴史をディベートする」である。歴史修正主義者たちは、まともな歴史学研究成果とインチキな思い込みを同じ俎上に置くことによって、自分たちのでたらめ主張が歴史学の研究成果と同等なものであるかのように装う。この手段として、ディベートを使っている。
 本来、歴史学は科学なのだから、ディベートになじまないのは当然のことなのに、歴史修正主義では、知的活動などは眼中になく、ただ、相手を言いくるめることにのみ注力される。
  
 本書を読むと、歴史修正主義者たちの低レベルな歴史ねつ造活動が、日本社会に受け入れられた理由の一端がわかる。

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