本の紹介―極秘公文書と慰安婦強制連行 ― 2019年03月24日

今田真人/著『極秘公文書と慰安婦強制連行 (外交史料館等からの発見資料) 』三一書房 (2018/2)
日本軍が韓国人従軍慰安婦を集めて慰安所を作っていたことは事実だ。本書は、そのような事実と慰安婦を集めていたことを日本の公文書をもとに明らかにしている。日本の右翼勢力は「慰安婦強制連行」の事実を否定しているが、これは、日本の警察や日本軍人が直接に暴力をふるうなどして、自ら慰安婦を集めた事実があった証拠がないというものだ。本書においても、日本人警察官や日本軍人が直接朝鮮人女性を強制連行した事実があったことを証明したものではない。
一般に犯罪の教唆は正犯とみなすので、そういう意味で、慰安婦強制連行が日本軍や日本政府の明確な犯罪であることは間違いない。しかし、オウム真理教の犯罪では首謀者の松本智津夫は、最初、弟子が勝手にやったかのような言い逃れをしていたことからもわかるように、自分が直接手を下していなければ言い逃れできると思う人もいるだろう。このため、日本人の中の貧困な精神の持ち主や、右翼勢力、総理大臣などが、日本による慰安婦強制連行がなかったかのような考えを持ってもおかしくはないし、このような考えに対して、本書の記述が何らかの反論になっているとは思えない。
本の紹介ー台湾と尖閣ナショナリズム ― 2019年03月25日

本田善彦/著 『台湾と尖閣ナショナリズム 中華民族主義の実像』 岩波書店 (2016/4)
江戸時代、尖閣は中国大陸と琉球との航路の目印として使用されていた。この時代に台湾に住んでいた人々は尖閣とは関係は持っていなかった。明治になって、日本政府が琉球を内国化すると、中国はこれに抗議して、日中間で琉球の領有権は未解決問題となった。しかし、日清戦争で日本が勝利して、台湾の割譲を受けると、琉球・尖閣・台湾は日本の領土であることが決定した。
尖閣周辺海域は好漁場であるがいずれの地域からも遠いので、製氷設備なしには、生魚を運搬することはできなかった。最初に尖閣を開拓した日本人は、最初に海鳥の捕獲をし、次に鰹節製造を行った。この事業には、琉球人、台湾人が従事している。
台湾に製氷設備ができると、台湾漁船が尖閣周辺海域に出漁するようになる。この時期には、琉球(特に八重山)漁民の中には、台湾船にやとわれて漁業に従事する者もいたようだ。
日本の敗戦により、台湾が日本から離れ、琉球が米国占領下になると、台湾漁民はこれまで通り尖閣周辺海域で漁業や、上陸して海鳥の卵の採集などを行っていた。
沖縄が日本に返還されると、尖閣の施政権が日本に引き渡されたことにより、台湾漁民の出漁ができなくなった。
本書は、沖縄返還後に台湾で起こった『保釣運動』について、『1970-1980年代 北米』『1970-1990年代 台湾』『1970-2010年代 香港 中国大陸 華人社会』と、三地域の関係者にインタビューを行い、保釣運動の源流から実情までを取材している。インタビュー内容が多いので、ちょっと読みにくい。
台湾は親日であるとか、反日であるとか、決めつけるのではなくて、事実を理解するために、本書は有益だろう。
本の紹介―ソビエト連邦史 ― 2019年03月26日

下斗米伸夫/著『ソビエト連邦史 1917-1991』 (講談社学術文庫) 2017/2/11
ロシア革命からソ連崩壊までのソ連邦政治の通史。スターリン時代までが詳しい。フルシチョフ時代は詳しくはないがそれなりに書かれている。それに対して、ブレジネフ以降はさっと。
特別展「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」 ― 2019年03月28日
ビクセン 単眼鏡 4×12 ― 2019年03月29日
父母仏ー性行為中の仏像 ― 2019年03月30日
本の紹介ー仏教入門 ― 2019年03月31日

三枝充悳/著『仏教入門』 (岩波新書)1990/1
タイトルが「仏教入門」なので、日本の仏教・各宗派の概要が分かるのかと思って読むと大間違いである。
本書の内容の中心は、インド仏教思想の中心的な部分の解説と、インド仏教思想史であり、入門にしては内容も高度。ある程度、仏教思想の知識がないと、読みにくいと思うが、仏教思想の知識が多少ある人が、仏教思想の基本を再確認するためには、初期仏教や部派仏教の基本概念について、簡潔に解説されていて、読みやすい。
本書は3つの章に分かれている。
第一章はインド仏教史。仏教の起こりと展開の概要が書かれているが、ページ数は多くはない。
第二章が本書の中心で、インド仏教思想史。初期仏教、部派仏教について、無常、三法印、四諦八正道のような基本的な用語を解説することにより、思想の概要を明らかにしている。でも、これらの概念間のつながりを理解する事前知識がないと、この時代のインド仏教思想を理解するのは困難だろう。ただし、ある程度の仏教知識がある人が、当時の仏教思想を再確認するためには、良くまとまっていて読みやすい。
初期大乗仏教については、諸仏・諸菩薩・初期大乗経典・竜樹と、重要で特徴的なものの説明がなされるが、全体像がつかみにくい。
中・後期大乗仏教と密教については、主要人物名と主要経典などの羅列で、歴史の教科書のような記述で、これだけで、思想内容を理解するのは困難だと思う。
第三章は、スリランカ、ミャンマー、タイ、中国、朝鮮、日本など、インド以外へ仏教が伝来した以降の、各地でのそれぞれの展開について、触れているが、頁数も少なく概略にとどまる。