本の紹介-消された「徳川近代」明治日本の欺瞞2019年06月26日

 
原田伊織/著『消された「徳川近代」明治日本の欺瞞』(2019/2)小学館
  
 「明治維新は素晴らしかった」との歴史認識が、学校教育等で教えられていた時代があった。また、司馬遼太郎の小説で坂本龍馬や勝海舟が主要人物として取り上げられると、学校教育でも、司馬遼太郎の小説に沿った歴史判断が教え込まれたこともあった。
 本書は、これらの極端な歴史観の否定と、幕末の幕臣の有能さを指摘するもの。能力で出世をしていく旗本と、江戸時代の長い間、公家として遊んでいたものや、薩長の田舎にとどめ置かれた人たちの能力とくらべたら、幕臣に分があるのは当然だ。
 
 本書第1章では、咸臨丸を取り上げる。勝海舟は船酔いでほとんど役に立たなかったことと、咸臨丸はアメリカ人船員の力で航海したが、日本人でも小野友五郎はアメリカ人と同等な測量技術を持っていたことなどが書かれている。
 現在、高校日本史教科書・詳説日本史では咸臨丸は取り上げられていない。教授資料(教師用教科書)には、勝海舟は咸臨丸航海で役に立たなかったことが書かれている。このため、今の若い人にとって、本書の記述はより深い理解にはなるが、常識的な内容と感じるだろう。
 
 第2章では岩瀬肥後守を中心に、幕末の日米条約などを取り上げ、幕臣の外交能力が高かったことを示す。当時の幕臣が、世間知らずの公家や薩長の田舎侍とは比べ物にならない海外知識を持っていたことは想像に難くない。
 
 第3章は、小栗上野介を取り上げる。小栗については、すでにいくつもの本が出版され、彼の業績に対する理解も少なくないので、特に目新しい内容とは思えなかった。
 
 明治以降戦後の一時期まで、明治維新礼賛の誤った日本史教育が推進されていたので、そうした歴史観を事実と思い込んでいる人が、歴史観を新たにするためには、本書は有益だと思う。でも、今の高校日本史教科書では、明治礼賛の誤った歴史観はだいぶ少なくなっているので、今の若い人にとって、本書の記述内容は特に驚くことはないと思う。
 
 なお、東京都豊島区の雑司ヶ谷霊園には岩瀬肥後守の墓や小栗上野介累代の墓がある。小栗上野介は群馬県高崎市倉渕町で斬首されたので、遺骨は同市・東善寺に埋葬され、ここにも墓が建てられている。

* * * * * *

<< 2019/06 >>
01
02 03 04 05 06 07 08
09 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30

RSS