本の紹介―ネット右翼とは何か2019年09月14日

 
樋口直人、永吉希久、他/著『ネット右翼とは何か』青弓社 (2019/5)
 
 6人の社会学者による6編の論文。ただし、最終論文は、前5編の論文のまとめの要素がある。執筆者は准教授クラスの人が多い。
 
 本書はネット右翼を解明するもの。2編の論文は社会調査・統計調査によりネット右翼の実情を明らかにしている。最初の論文では、排外主義的傾向と政権親和性との傾向により、ネット右翼を分類し、このような人がどのような階級であるかを統計調査により解明している。2番目の論文では、在特会の桜井が選挙に立候補した時に、彼に投票した人の性向を統計調査している。日本のネット右翼の実情を示しているものとして興味深い。
 これらの論文によると、ネット右翼には情報処理産業に従事する者が多く、年代は30代40代に多い。欧米の右翼は低学歴・低賃金者が多いのに対して、日本のネット右翼は高学歴で賃金も比較的高いとの調査結果である。ただし、非常に面白い調査として、ネット右翼は自己肯定感が乏しく、自分を高学歴とか高賃金とは思っていないものが多いとのことだ。
 この調査結果の意味について、本書には何の説明もない。
 
 私は、長年・情報処理産業に身を置いたので、このような調査結果の意味が、なんとなくわかる気がする。
 公立小中学校のときは勉強ができた子で、高校は進学校に入り、そこで授業は出て単位はとったものの漫然と過ごし、二流大学の理系に入り、学生時代も漫然と過ごして、特に工学のスキルもなく、募集の多かった情報産業に就職した、こんな人が情報産業には結構多いのです。こういう人は、社会一般から見ると高学歴だけれど、職場で使用する数学に堪能ということもないので、職場の中では、二流大卒の低学歴者になってしまう。コミュニケーション力があるならば営業や総務・人事などに移って成功する人もあるだろうけれど、高校・大学と漫然と過ごし情報処理に入る人の多くにコミュニケーション力があるわけではないので、30代40代になると、なんとなく疎外感を強く持つのだろう。
 
 本書には、統計調査の2編の論文のほかには、以下のものが収められている。
 
 『ネット右翼の生活世界』のタイトルで、Facebookの投稿を調査して、ネット右翼がどのような人なのかを紹介している。「自営業者」「サブカルチャー」などであるが、どうも論文の内容が今一つ理解できなかった。
 ネット右翼は歴史関連の発信が多いのだけれど、歴史に対する関心から歴史修正主義や排外主義に至るのではなく、ネット右翼の活動に必要な動機の語彙として歴史が選択される、すなわち、相手をバッシングするために歴史が利用されるとの指摘は、ネット右翼の行動分析として考えさせられる。
 
 『ネット右翼と参加型文化』
 
 『ネット右翼と政治』では、ネット右翼がbotを活用して、主張を振りまいているさまを調べている。ネット右翼なる人たちは、言われているほど多くはなく、botの活用などで、勢力を誇示しているだけなのだろうか。
 
 『ネット右翼とフェミニズム』は全体のまとめを含む内容。

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