本の紹介ー買春する帝国2019年09月24日

 
吉見義明/著『買春する帝国: 日本軍「慰安婦」問題の基底』 岩波書店 (2019/6)
 
 近現代日本史が専門の歴史学者による、明治以降、売春防止法成立までの日本における売春の歴史の解説。一般向けの啓蒙書ではなくて、学術的内容の専門書。参考文献も多い。
  
 日本の男は売買春なしにはいられず、もし売買春がなければ、多くの男が強姦に走るとの考えが日本社会に根強かった。また、女性器を広げて目視検査することにより、性病の蔓延を防げるとの見解も強かった。このため、日本では、明治以降公娼制度が実施されていた。欧米では、女性の意志に反した管理売春を禁止する傾向が強まったのに対して、日本では管理売春を推し進めており、人権意識としては後進国だった。日本の公娼制度では、売春希望女性や甘言により売春を強いている女性に対して、居住の自由を与えず、客の男性を拒否することもできずに、官憲が売春管理人と一体となって、売春を強要していた面がある。
 
 本書では、明治以降の日本の売春制度、特に公娼制度について詳しく書かれている。
 本書は7つの章があり、時代を7つに分けて、各時代ごとに一つの章を当て、それぞれの時代の売春制度について詳述されている。7つの時代区分は、「明治維新から日清戦争まで」「日清戦争以降日露戦争まで」「日露戦争以降シベリア出兵・第一次世界大戦まで」「世界恐慌」「満州事変から日中戦争前」「日中戦争から敗戦まで」「戦後占領」となっている。どの時代区分が特に多いというわけではなく、明治以降の売春制度の全容が理解できる。
 
 このうち、第6章の日中戦争期の売春制度では、朝鮮人従軍慰安婦にも触れられている。ただし、この問題を解明することが本書の主眼ではない。  
 朝鮮人従軍慰安婦問題では、「慰安婦は単なる職業であった」とか、「日本軍により強制されていた朝鮮人弾圧だ」などの見解がある。しかし、朝鮮人従軍慰安婦は日本の公娼制度の延長にあるので、単に職業であるわけではなく、また日本軍による朝鮮人弾圧であるわけでもない。本書を読むと、日本の公娼制度の中で生まれた、軍・警察が関与した公娼であったことが理解できる。

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