本の紹介―歴史戦と思想戦 ― 2019年11月08日

山崎雅弘/著『歴史戦と思想戦』集英社新書(2019/5)
著者は歴史著述業で、近現代戦史の著作が多い。
近年、日本では、戦前の日本を史実を捻じ曲げて礼賛する人たちがおり、産経新聞などでは声高に大日本帝国礼賛が叫ばれる。このような人たちは「歴史修正主義者」と呼ばれる。
本書は、従軍慰安婦問題や南京大虐殺をなかったことにしようとするこれらの歴史歪曲手法をあばき、このような主張は国際社会に全く受け入れられていない状況を説明する。
歴史学者の研究やマスコミ報道の中に、その後誤りであったことが明らかになったものもある。従軍慰安婦問題や南京大虐殺報道の中にも、誤りが見つかったものもあるのは当然のことだ。誤りが見つかったことは誤りであるが、それ以外が誤りであることにはならないのは当たり前であるが、歴史修正主義者たちは、従軍慰安婦問題や南京大虐殺報道の中に、ごくわずかなのミスを見つけても、従軍慰安婦問題や南京大虐殺がなかったかのように事実を歪曲する。本書の第一章は、歴史修正主義者たちの、このような低レベルの手法を解明し、彼らの目的が歴史学とは無縁な「論破」にあることを明らかにしている。なお、本章に限らないが、本書ではケント・ギルバートの主張を批判する部分が多い。ケント・ギルバートの主張は、単なる日本ヨイショなので批判は当然だ。
第一章と同様な内容は他書にも多く書かれているので、同様な内容を読んだことがある人も多いと思う。第二章は歴史修正主義者たちの言う「日本」とは何であるかを問題としている。縄文時代以来の日本列島の歴史なのか、大日本帝国の施政なのか、戦後の日本のことなのか、そういうことである。歴史修正主義者たちが、これらを混同して、大日本帝国の施政を批判することが、現代日本人全員を批判するかのように吹聴している実態を明らかにしている。当然のことであるが、ほとんどすべての日本人には大日本帝国の施政に責任はないだろう。
第五章では、歴史修正主義者の主張が、海外で、まったく共感を得ていない実態を明らかにする。海外の多くの人にとって日本の過去の評価に関心はないだろう。関心があるのは、近代史学者で、こういう人たちには、歴史修正主義者達の歴史歪曲手法が受け入れられないのは当然のことだ。
P240にこの点がはっきり記載されている。
『過去の出来事について、その全体像を解明するために細部の事実関係を丁寧に検証していく「歴史研究」の方法論と、まず最初に「大日本帝国は悪くない」という「結論」を立て、それに合う「事実」だけを集め、それに合うように「事実」を歪曲する「歴史戦」のスタイルは、まったく対極に位置するものです。』