本の紹介―徴用工裁判と日韓請求権協定2019年11月13日

 
山本晴太・他/著『徴用工裁判と日韓請求権協定』現代人文社(2019.9)
 
 2018年11月末、韓国の最高裁判所は、戦前の韓国人徴用工の酷使に対して、三菱重工に賠償金を支払えとの判決を下した。日韓基本条約では、両国間にあった財産・権利及び利益並びに日韓両国及びその国民との請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたこととなっていることが確認された。日本政府は、韓国の判決を日韓基本条約違反であるとして激しく反発し日韓の政治対立になった。
 
 本書は東京弁護士会・第二東京弁護士会・福岡顕弁護士会・愛知県弁護士会に所属する6人の弁護士による共同執筆。弁護士の執筆なので、政府の過去の説明や、裁判所の判例など、法律の詳しい解説が本書の中心になっている。
 本の前半が解説で、後半は資料。資料の中には、韓国最高裁判所判決の日本語訳、日本最高裁判所判決、日韓の間の条約や共同声明などがある。『大韓民国等の財産権に関する措置法』はない。
 
 条約に「完全かつ最終的に解決された」と書かれているからと言って、日韓両国民のすべての権利が消失したと考えるのは、あまりに法律知識がなさすぎだ。このような解説が日本のマスコミを席巻している現状は情けない。本書を読めば、ことはそんなに単純ではないことがわかるはずだが、多くの日本国民は学習意欲が乏しいので、本書のような法律の解説書を読む人は少ないだろう。
  
 ところで、日本とソ連(ロシア)との間には、日ソ共同宣言により、日韓と同様に相互の請求権は放棄されている。
 『本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。』
 日本政府の見解では、ソ連に抑留された日本人のソ連・ロシアに対する請求権は消滅していない。また、ソ連の抑留を非難し道義的責任を追及する権利は当然に消滅していない。
 日韓の間でも同じことで、韓国人被害者が日本の加害企業に請求する権利が消滅していないことや、日本の残虐行為を非難し道義的責任を追及する権利は消滅していないことは、明らかだ。
 
 日本にある韓国人が日本の法律に基づいて、日本の企業に対して、日本の裁判所に賠償請求訴訟を起こすことを否定する見解は、日本には存在しない。損害を賠償する根拠となる法律は日本にないので、損害賠償請求が認められたことはないが、提訴自体が不法になるわけではない。
 では、韓国人が韓国に存在する日系企業に対して、韓国の法律に基づいて損害賠償提訴することは可能だろうか。普通に考えたら、当然に提訴可能であり、今回の韓国最高裁判所の判決は、韓国の法律に基づく損害賠償命令だった。三菱重工は韓国の法律が適用されることが嫌ならば、韓国で企業活動しなければよいのに。ところで、韓国人の原告が、韓国裁判所判決をもとに、フランスにある三菱重工の財産を差し押さえることができるだろうか。これは、フランスの裁判所が判断することなので、実際に裁判が実施されないことにはわからないが、韓国人原告勝訴の可能性は大いにあります。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

* * * * * *

<< 2019/11 >>
01 02
03 04 05 06 07 08 09
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

RSS