本の紹介―韓国徴用工裁判とは何か2020年02月21日

 
竹内康人/著『韓国徴用工裁判とは何か』岩波ブックレット(2020.1)
 
 2018年10月30日、韓国の最高裁では、戦時中の強制徴用に対して、新日鉄住金に損害賠償支払いを命ずる判決が確定した。この判決について、日本国内では「国際法違反」等々の批判が相次いだ。
 
 本書は戦時中の強制徴用の実態、徴用工の労働の実態を解説し、さらに、戦後、日韓の間で何がどのように解決されたのか、韓国の最高裁の判決がどのようなものであるのか、など、徴用工と韓国最高裁判決について、多角的な解説がなされている。ただし、本書はブックレットの性格上、一般読者向けの啓蒙書であるので、裁判の技術的問題など微妙な問題に対する解説はない。
 
 現在、日本政府・マスコミなどでは韓国最高裁判決が、明らかに、国際法違反であるかのように主張している。しかし、日本の裁判においても、三菱重工広島の2005年広島高裁では、日本政府が原告46人に一人120万円の損害賠償を命じる判決を出している(P30) のをはじめ、日本製鉄・2001年大阪地裁判決、三菱名古屋・2007年名古屋高裁判決では強制労働の事実が認定されている(P68)。日本の下級審でも、損害賠償請求を認める判決があるのだから、損害賠償認定の是非は裁判官によって判断が分かれるところであり、「明らかに国際法違反」などと単純なものではない。
 
 1965年の日韓請求権協定では、「財産・権利及び利益と請求権が完全かつ最終的に解決されたこととなる」とされている。日本政府の国会答弁では、放棄されたものは外交保護権であり、個人の請求権が放棄されたのではないとされている。この件に関して、本書では、小和田恒の以下の説明が記されており、日本政府の本音と建て前を考えるうえで参考になる。
 『原則は全部消滅させるのであるが、その中で消滅させることがそもそもおかしいものがある。理論的にいってどこまでのものを消滅させ、どこまでのものを生かしたらいいのかという問題と、政策的にいってどこまでのものを消滅させなければいけないのかという問題があった。そこで、請求権は放棄すると書き、説明として外交保護権の放棄であるということにした。(P44)』
 
 ところで、請求権裁判の管轄権は日本にあって韓国にないのか、日本にあるか否かにかかわらず韓国にもあるのか、両方の見解がある。国際法上、韓国に裁判権がないのならば、今回の韓国最高裁判決は国際法違反ということになるが、日本政府の説明や日本のマスコミ解説では、このように訴訟手続きの細かい議論は見かけない。本書は一般読者向けの啓蒙書であるため、このような訴訟手続きの細かい話はない。

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