本―日ソ戦争 1945年8月2020年09月25日

 
富田武/著『日ソ戦争 1945年8月 棄てられた兵士と居留民』みすず書房 (2020/7)
 
 太平洋戦争末期、8月9日に、ソ連は対日参戦した。本書は、この時の戦争のようすを解明した研究書。著者はシベリア抑留研究書を多数執筆しているが、本書にはシベリア抑留の話は少ない。
 本書は3つの章に分かれる。
 
第一章「戦争前史 ヤルタからポツダムまで」
 この章は全体の1/5程度で、ヤルタ会談以降ポツダム会談までの時期の主に政治的動きを解説している。
 
第二章「日ソ八月戦争」
 第一節ではソ連対日参戦以降の、満州各所及び北朝鮮における戦闘の模様を日本側・ソ連側資料に基づいて解明。この部分が、最もページ数が多く本書のメインになっている。
 第二節は戦闘中の混乱した状況において発生した、ソ連軍や地域住民により与えられた日本人民間人の犠牲の話。
 第三節は捕虜の移送について
 
第三章「戦後の重い遺産」
 この章は全体の1/8程度で民間人の残量・引揚や戦犯裁判などを解説。
 
 本書の中心になっている第二章第一節は、日ソの戦闘のようすを解明する立派な研究書なのだと思うのですが、読んでいてあまり面白くなかった。ソ連側、日本側の著書だと、自分に都合の良い記述になりがちだけれど、読み物としては面白い。それに対して、本書のようにソ連側・日本側の両方の資料をもとに客観的に書くと、読み物としてはつまらない記述になってしまいます。本書はウケを狙ったものではなくて、研究書なのだから、面白さに欠けるのは当然なのですが。

 また、第二章第二節は「ソ連軍による満州での蛮行」のタイトルで、戦闘中に発生したソ連軍や地域住民による日本人民間人の被害について書いているが、戦闘中は混乱するものだから、平時の感覚通りにすべてが進むことなどありえない。ソ連軍が日本人民間人を攻撃したと書かれているが、戦闘員は欺瞞するものだから、民間人風であるとか民間人と名乗ったことが非戦闘員である証拠にはならない。そもそも、満州開拓団は自警組織だったので、軍事的性格を帯びていたことも事実なので、純粋な非戦闘員ということはできないだろう。
 
 著者はシベリア抑留に関する著作が多い。シベリア抑留では日本人俘虜が大変な思いをしたとして、ソ連を糾弾する論調が巷間には多い。「シベリア抑留期の日本人俘虜の大変さ」とは、要するに「衣食住が不十分だった」「労働がきつかった」ということだ。本書の著者は単純にそのような立場に立っているわけではない。戦争中には、日本の捕虜になった連合軍俘虜もいるが、このような人の証言では「理不尽にスコップで殴りつけられて大けがをした」「無意味な行進をさせられた」など、虐待を目的とした虐待の告発がある。しかし、シベリア抑留では、日本のような虐待を目的とした虐待の話がないのは、どうしてだろう。
 本書の第二章第二節では、戦争の混乱した状況での、一部兵士の犯行をソ連が防止できなかった事例が書かれている。翻って、日本を見ると、南京大虐殺は部隊として住民虐殺をしたとの研究もあるし、中国や朝鮮では、日本軍が組織として強姦等の犯罪を犯していたことが知られる。本書の記述には、ソ連軍が組織として強姦犯罪を犯していたとの事例は紹介されていない。ソ連兵個々には悪人がいたとしても、ソ連軍自体は日本軍のように残虐ではなかったのだろうか。

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