本の紹介―元徴用工和解への道2020年09月28日


内田雅敏/著『元徴用工和解への道 戦時被害と個人請求権』ちくま新書 (2020/7)

 戦時中、日本は中国・朝鮮から労働者を強制連行・強制徴用・任意徴用して、奴隷労働に使役した。元徴用工の一部のものは、日本企業に対して損害賠償請求を行った。日本の裁判で和解が成立したものや、韓国の裁判で損害賠償請求が確定したものなどがある。

 本書は東京弁護士会に所属する弁護士による元徴用工問題に関する一般向けの本。元徴用工問題を考える上で有益な本です。
 第一部は韓国大審院で損害賠償請求が確定した裁判の説明、および、日韓請求権協定では「個人の請求権がなくなったわけではない」とする日本政府の公式見解の解説。
 第二部はページ数が多い内容で、中国人徴用工に対して、花岡鉱山、西松建設、三菱マテリアルなどの日本企業が賠償請求で和解した例の説明。西松建設に起こされた訴訟では、日本の最高裁判所は賠償請求を棄却するも、判決に「付言」が付けられた。これは、西松建設に対して、強制労働の人道上の責任を認め、賠償金を和解金として支払うことを強く求めるものだった。その結果、西松建設は判決の付言に沿う形で中国人元徴用工と和解した。
 第三部は解決への方向性を考えるための内容で、朝鮮人・中国人徴用工の問題にとどまらず、関連した問題を幅広く解説。

 それから、中国人徴用工に関して以下の記述がある。中国人徴用工の死亡率は17.54%に上ったそうだ。日本人の残虐ぶりが際立っている。
P67
 一九四二年=月二七日、時の東條内閣は、中国大陸から中国人を日本国内に強制連行し、鉱山、ダム建設現場などで強制労働に就かせることを企て、「華人労務者内地移入に関する件」を閣議決定し、一九四四年二月二八日の次官会議を経て同年八月から、翌一九
四五年五月までの間に三次にわたり三万八九三五人の中国人を日本に強制連行し、国内の鉱山、ダム建設現場など一三五事業場で強制労働させました。
 この強制連行・強制労働は、形式的には「雇用契約」の体裁を採っていましたが、戦闘における捕虜、占領地における民間人の有無を言わせずの拉致等、強制連行・強制労働以外の何物でもなく、国際法違反は明々白々のものでした。
 日本の敗戦に至るまでの約一年の問に、六八三〇人が亡くなりました。死亡率一七・五四パーセントです。

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