本の紹介ー科学化する仏教2020年10月04日


碧海寿広/著『科学化する仏教 瞑想と心身の近現代』 (2020/7)角川選書

本の内容紹介には次のように書かれている。
近現代の仏教は、つねに最先端の科学と接点をもち、自らの可能性を問い直し続けてきた。宗教体験の心理学、禅や祈祷の科学的解明、さらには催眠術、念写、透視の研究まで。ときに対立し、ときに補い合う仏教と科学の歴史から、日本近代のいかなる姿が浮かび上がるのか。ニューサイエンス、オウム真理教事件、そしてマインドフルネスの世界的流行へ―。対立と共存のダイナミズムに貫かれた百年史を、気鋭の近代仏教研究者が描き出す。
本書の内容に反対というわけではないのだけれど、疑問を感じた。

 仏教はキリスト教と違って絶対者をたてないので、科学と対立するところは少ない。浄土系は来世信仰なので科学の領域外だし、禅は見方によっては精神鍛錬の手法なので、精神医学そのものともいえる。本書では、こうした観点から、明治以降の日本仏教が精神医学、催眠術などにより、科学化してきた実情を説明している。
 日本の仏教家は数が多いので、そういう方向性を持った人がいたことは間違いないだろうが、現実の日本の仏教は葬式という儀式を行うところという面が強く、これだと科学と抵触せず、科学化も意味をなさない。

本の紹介―隠された「戦争」2020年10月10日

 
鎌倉英也/著『隠された「戦争」 「ノモンハン事件」の裏側』 論創社 (2020/7)
 
2001年に出版された本の復刻版です。
初版本に比べて表紙が薄くサイズも小さくなったように感じます。
 
旧版については、以下をご覧ください。
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2011/09/23/6110910

本の紹介―南方からの帰還2020年10月11日


増田弘/著『南方からの帰還:日本軍兵士の抑留と復員』慶應義塾大学出版会 (2019/7)
 
 シベリア抑留は有名で、抑留の苦労話や抑留実態の研究書も多い。しかし、南方抑留についてはあまり知られていない。本書は、南方地域での抑留に関する研究書。
  
 日本の敗戦に伴い、日本軍将兵は連合国軍に降伏することになった。このうち、東南アジアの日本軍はアメリカ・イギリスなどに降伏した。本書は、これら日本軍将兵の抑留に関する研究。参考文献もそれなりに豊富。
 第一章はイギリス軍管轄、第二章はオランダ軍管轄、第三章はオーストラリア軍管轄、第四章はアメリカ軍管轄下のフィリピンをそれぞれ対象としている。
 
 イギリス軍管轄地域では、1946年9月までに60万人の日本軍民が帰還したが、13万の日本軍将兵はその後も現地の復興を名目に抑留させられ、イギリス軍の下働きや、道路掃除などの雑役、石切などの重労働に使役させられた。第一章はイギリス軍が日本軍将兵を強制労働に使役するために抑留を続けようとするのに対して、マッカーサーが異を唱え、早期復員を求める様が、各種文書により詳述される。本章では、抑留日本軍将兵がどのような扱いを受けていたのかという点は、記述が少ない。
 イギリス軍管轄下の日本軍将兵は、戦犯などの犯罪受刑者を除き、1948年1月3日までに全員が復員した。強制労働に対する賃金をイギリスは支払っていない。
 
 旧蘭印はオランダの管轄となった。旧蘭印では、日本軍人のみならず民間人も併せて23万人が強制労働に使役され、13500人の将兵が残留を強いられた。彼らは1947年5月まで重労働などに従事した。蘭印の日本軍将兵のうち、戦犯の可能性が高い者を中心に、ポツダム宣言や玉音放送を無視して、連合国軍に投降することなく、インドネシア独立運動に身を投じたものも多かった。
 本書によると、捕虜を監督したオランダ軍人は、戦争中、日本軍の捕虜となり、残虐な扱いを受けていたものが多く、このため、日本軍捕虜に対して、厳しい仕打ちをした場合が多かった。ただし、本書の記述では具体的な話は少ない。
 マッカーサーの要請やインドネシア独立運動の激化などにより、オランダ軍管轄下の日本軍将兵は、戦犯などの犯罪受刑者を除き、1947年5月までに全員が復員した。強制労働に対する賃金は、イギリス同様オランダも支払わなかった。
  
 オーストラリアの管轄地は、1946年6月までには、ほぼ全員が日本へ帰還した。抑留帰還が短かった点では恵まれた地域と言えるが、抑留中の残虐行為の被害も知られている。マラリアに罹患し発熱した日本兵に重い荷物を担がせ、走れないと鞭で叩いて足蹴にする、あるいは、面白半分に拳銃弾をパチンコで顔面に当てて負傷させる等の悪質事例があったことが、本書に記されている。
 
 アメリカ管轄地だったフィリピンは、戦争中の日本兵が死者が多かったところである。降伏した日本軍将兵には衰弱し労働に不適なものが多かった。このため、アメリカ管轄地の日本軍将兵は抑留されることなく、早い段階で帰還したのだと思っていた。しかし本書によると、フィリピンで捕虜になり抑留のうえ強制労働に使役された日本軍将兵は10万人を超え、食料不足のなか炎天下の重労働に従事させられたものも多い。抑留者は段階的に帰還している。1946年12月までには約半分の5万名が帰還した。本章のまとめには、以下のように記載され、アメリカ管轄地でも、復員が送らされた実態が書かれている。  
 そして復員に関しては、今回発見された米軍側資料から、マッカーサーの早期復員方針に現地から批判が起こったことが判明した。フィリピン・沖縄に抑留されていた58000名の日本人捕虜は、米西部太平洋地域陸軍にとっては一連の復興作業や保全作業に不可欠であった。にもかかわらず復員政策が推進されたために、復興事業が進捗しないと司令官が不満を漏らしていた。つまり、英蘭軍がビルマ、マレー、インドネシアなどで日本人の復員を極力抑制しようとした動きが、実はフィリピンでも起きていたわけである。(P245) 

本―ロヒンギャ 差別の深層2020年10月13日

  
宇田有三/著『ロヒンギャ 差別の深層』 高文研 (2020/8)

読んだことを忘れないように、書き留めておきます。内容の是非以前に、私には文章が読みにくかった。ロヒンギャ問題は複雑であるのはわかるが、だからと言って、複雑で雑多な問題をそのまま提示されているようで、わかりにくい。もう少しわかりやすく整理してほしかった。
 
ロヒンギャ問題を理解するためには、以下の本がお薦めです。
日下部尚徳、石川和雅、他/著『ロヒンギャ問題とは何か 難民になれない難民』明石書店 (2019/9)

本-FACT FULLNESS2020年10月17日

 
ハンス・ロスリング 他/著『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』日本語訳(2019/1)日経BP
 
 ずいぶん話題になっているようなので、一応読んでみました。
 400ページ余りの本。論旨も一貫していて、文章は読みやすく、行の間隔も若干大きく、内容も高度ではないので、本の厚さの割には、すぐに読み終える本です。逆に言うと、この内容ならば、50ページ程度のブックレットでよかったのではないかと思います。
 
 本の内容は、貧困、人口、教育、エネルギーなど、世界にまつわる知識により、真実と多くの人が考えていることが、実は誤解であることを示している。
 たとえば、
 『質問12 いくらかでも電気が使える人は、世界にどのくらいでしょう?』
 『A 20% B 50% C 80%』
 この質問の正解Cを正しく選択した人は、国により異なるが、およそ15%~30%と、少数とのことだ。
 このように、間違える原因と間違わないための方法を示しているわけだが、この本を読んだ限りは「まあそんなものですか」と一応納得はする。
 でも、この調査は、統計的に信憑性の高いランダムサンプリングをしたのだろうか。年代層や教育レベルに偏りはないだろうか。日本人を対象とした調査の場合、質問は、この通りの文言だったのだろうか。いつの調査なのだろうか。もちろん出典を掲載してあるが、一般には入手が困難で、検証は困難だ。
 誰だって、世界中の地理認識が最新のものに更新されているわけではないので、多少は古い知識に基づいていることは当然のことだろう。古い調査で、古い知識を聞いたならば、それは古い認識になっていることは当然だ。
 ネットで、ざっくり調べたデータでは、インドで電気が利用できる世帯割合・人口割合は、2001年で56%、2011年で67%、2016年で77%と着実に増加している。ここ20年、BRICs諸国は、急激に変化した。急激な変化に関する知識に関連した調査は、細心の注意が必要だが、この本の調査は、どのように行われたのか、本を読んだ限りは、良く分からない。
 
 著者が言うように、データや報道を人々が誤解する可能性はあるだろう。しかし、単に知識が古いだけという場合もあるだろう。著者はスウェーデン人であるが、ヨーロッパの辺境国に住む老人たちが、近年のアジアの発展を知らなくても驚かない。そういう状況と、データや報道理解の問題とが正しく分けられているのか、本書を読んでも良く分からなかった。

本-幽幻廃虚2020年10月23日

 
星野藍/著『幽幻廃虚』 三才ブックス (2017/9)
 
 ここ数か月前から、ナゴルノカラバフ問題をめぐって、アルメニアとアゼルバイジャンが衝突しているとのニュースがある。本書は、これらを含むコーカサス地域にある廃墟の写真集。このほかに、台湾・日本などの廃墟写真もある。
 対象としている地域は、ナゴルノカラバフ、アルメニア、ナヒチェバン、グルジア、アブハジア、ウクライナ、沿ドニエストル共和国(PMR)、ルーマニア、モルドバ、トルコ、台湾、中国、韓国、日本。
 
 日本人には、あまりなじみがない地域なので、これら地域の写真集を出版したことに敬意を表した。しかし、掲載されている写真が、これら地域の標準的な場所の写真なのか、たまたま残った廃墟なのか、よくわからない。それから、写真の解説が極端に少なく、何の写真なのか、私には理解できなかったものが多い。このため、廃墟マニアのための写真集以上の意義は見いだせなかった。

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