本の紹介-復員・引揚げの研究2020年12月28日


田中宏巳/著『復員・引揚げの研究―奇跡の生還と再生への道』新人物往来社 (2010/6)

 著者は、元防衛大学教授。日本軍が敗戦した外地のうち、米・英・蘭・豪占領地における日本軍の戦争、敗戦後の捕虜、戦犯などが説明されている。
 戦争の様子では、日本軍の作戦のまずさが強調される。
 敗戦後の捕虜となった日本兵については、理不尽に悲惨な目にあったことが強調される。レンバン島やファウロ島の俘虜生活などが詳しい。

 ファウロ島の日本兵に関連して、以下の記述がある。(P94)
(捕虜の中には)要領のよさを発揮してうまく取り入って信用させた者がいたことも十分考えられる。上司と別々にされ、規律弛緩を正す者が存在しなくなると、要領のいい者、悪賢い者、利にさとい者が上手に立ち回り、食糧分配を私しし役務をさぼり、仲間の苦労を見て見ぬふりをする現象が現れた。阿漕な人間はどこにもいるものだが、共に戦火をくぐり抜けてきた戦友、友軍が自分のために餓死しても、よそ事として振る舞う日本兵がいたことは恥ずかしい限りである。  戦後日本の復興過程で、身分制に近い家格と倫理道徳が崩壊し、目先が利き金勘定に強い人間が大を為していく萌芽を、すでに海外の収容所生活の中でも見つけることができる。戦後日本における倫理道徳の崩壊は、終戦直後の本土の社会から始まったと思われてきたが、すでに戦地の収容所で、戦友を踏み台にして私腹(正しくは私服)を肥やす日本兵の中に出始めており、これが戦後日本人の新しいサクセスストリーの始まりであることを銘記する必要があるだろう。

 「上司と別々にされ、規律弛緩を正す者が存在しなくなる」ときに、食料配分で自分が独り占めして仲間の日本人捕虜を餓死させた者もいるだろう。シベリア抑留の研究では、日本人将校の捕虜が、食料配分で不正を働き、日本兵捕虜が餓死した例も知られている。本書で著者が書くように「上司と別々にされ」たことが、餓死の主たる要因ではなく、上司である日本人将校の人権意識の低さに主たる原因があるように思える。

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