本の紹介-AI vs.教科書が読めない子どもたち2021年01月28日

 
新井紀子/著『AI vs.教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社 (2018/2)
 
著者は数学者でAI技術者。東大入試で合格点を取れるAIを開発するプロジェクトの担当者。
 
 本書の2/3は東大合格を目指すAIの話と、AIの仕組み・問題点。
 残りの1/3で、簡単な文章を理解できない中高生が多い状況を問題提起している。
 AIと低学力の問題は直接関係ないが、AIが発達すると、低学力の人が主に就いている職業がAIにとってかわられる恐れが高いので、AIと低学力問題が関係するとの危機意識なのだろう。
 
 第一章と第四章はイントロとまとめ。第二章はAIの話。第三章は低学力問題の話。
 このため、AIに興味があって教育に興味がない人は第二章だけ読めばよいし、教育に興味はあるがAIに興味がない人は第三章を読めばよい。
  
 著者は、最初、東大入試で合格点を取れるAIの開発を目指したが、その後、目標を下げてMARCH合格を目指すAIの開発に取り組んでいる。この研究の中で、内容を理解することがAIでは困難であるとの結論に達した。
 
 本の後半は、一部の上位生成者を除いて、中高生は文章の内容を正しく理解しておらず、教科書を読んでも、正しい理解に至らない事実を指摘している。上位国立大に合格する生徒の多くは、文章を正しく理解しているが、上位私立大だと理解者が減ってくる傾向が顕著に表れている。著者の別の論文によると、学校で教科書を読んで正しく理解できるのはクラスに2人程度とのことだ。
 児童・生徒が文章をどの程度理解しているのかという問題は、本来「国語科」の課題であるように思える。しかし、本書の著者は数学者であることがおもしろい。国語では文学作品をザッと読んで、書かれていない心情などを推測する訓練をしている。ところが、数学の文章題を解こうとすると、正確に問題が理解することが必要になる。このため、数学者が「文章の正確な理解」を問題とするのだろう。
 著者の研究によると、上位国立大に入れる能力がある生徒以外は、教科書を正しく理解する能力に欠ける場合がある。上位私立大進学者の一定割合でも、教科書理解の能力に欠ける、下位私立大進学者の多くは中高時代の教科書を理解する能力に欠ける。
 この結論に従うならば、昨今のヘイトスピーチも理解できる。中高生の教科書を読んで理解する能力に欠ける右翼が、自分に都合よく歴史書をデタラメに理解するなら、ヘイトスピーチにもなるだろう。

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