本の紹介-ロヒンギャ危機 「民族浄化」の真相 ― 2021年03月08日

中西嘉宏/著『ロヒンギャ危機 「民族浄化」の真相』 中央公論新社 (2021/1/18)
ロヒンギャとはミャンマー西部のラカイン州に住み、イスラム教を信仰し、ベンガル語を母語とするベンガル民族の人たち。19世紀の英国占領地時代や第二次大戦後の混乱期などに、バングラディシュのチッタゴンなどから移住してきた。また、1971年のバングラディシュ独立前後に、混乱を避けるためバングラディシュからやってきた不法難民もロヒンギャに含まれる。
「ロヒンギャとは何か」、「ロヒンギャ問題とは何か」 この問題に対して、ロヒンギャの歴史、民族問題、ロヒンギャのテロリスト、ロヒンギャの危機など、ロヒンギャ問題を知るうえで必要となる知識がが記載されており、ロヒンギャ問題の全体像を知るうえで好適な本。
著者は京都大学准教授であるが、文章は読みやすく、ロヒンギャ問題やこの地域の歴史などの事前知識がなくても、十分に読むことができる。読んでいると、ジャーナリストの書いた文章化と思ってしまうほど理解しやすく書かれている。
各章は以下の項目になっている。
序章:難民危機の発生
第一章:国民の他者-ラカインのムスリムはなぜ無国籍になったのか
第二章:国家による排除-軍事政権下の弾圧と難民流出
第三章:民主化の罠-自由がもたらした宗教対立
第四章:襲撃と掃討作戦-いったい何が起きたのか
第五章:ジェノサイド疑惑の国際政治ーミャンマー包囲網の形成とその限界
終章:危機の行方、日本の役割
現在、ロヒンギャ難民のおかれている悲惨な状況だけがやたらと詳しい本もあるが、本書はそう言った本ではなくて、ロヒンギャ問題を客観的に理解することができる。
現在のロヒンギャ難民問題は、イスラム過激派の中で育った、地域テロ組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」とロヒンギャ住民が一体となって、警察署などを襲撃し、政府に協力する地元住民やヒンズー教徒の虐殺を行ったことに始まる。ARSAのテロ行為に対して、以下の記述がある(P139)。
ARSAは襲撃後の声明で、この襲撃を「ジハード」(聖戦)だと表現した。また、襲撃がイスラーム的に合法であるというファトワー(イスラム法学者の見解)を、ARSAに所属する地元のイスラーム法学者が出していた。襲撃後には、サウジアラビア、ドバイ、パキスタン、インド、バングラデシュのロヒンギャ・コミュニティで、ほぼ同様のファトワーが出ている。ロヒンギャのイスラム社会全体がテロを肯定しているということなので、ロヒンギャ自体がテロリスト集団ということなのだろう。