本の紹介-私が原発を止めた理由 ― 2021年07月29日

樋口英明/著『私が原発を止めた理由』旬報社 (2021/3)
2014年、福井地裁は関西電力大飯原発3・4号機の運転差止めを命じる判決を下した。
本書は、この時の福井地裁判事部統括判事だった、樋口英明によるもので、差し止めを認める判断をした理由が書かれている。要するに、想定地震の規模が現実に発生している地震よりも小さいので、原発は安全ではないということだ。
『重力加速度(980ガル)よりも大きい地震など起こりえない』かつてはこのように考えられていたため、原発が作られたときの基準地震動は300ガル程度と、重力加速度の1/3だった。その後、耐震基準は引き揚げられたが、大飯原発3・4号機は重力加速度よりも小さい値になっている。
各地に地震計が置かれて、地震の詳細観測網が発展した。この結果、重力加速度を超える地震動は珍しくなく、2008年の岩手内陸地震では重力加速度の4倍を超える地震動が観測されている。また、2017年の和歌山県北部地震はM5.5と小規模地震で、最大震度も5強だったにも関わらず、重力加速度を超える地震動が観測されている。こうしたことから、著者は大飯原発3・4号機の危険性があるとの理由で、運転を差し止めた。
なお、本判決は高裁で否定され、原発は稼働することになった。国が電力会社の利益を考えて作った基準に合致していれば、大事故が起きても、人が何人死んでも、それは良いことだと考えるか、それとも、安全性は社会通念で判断するのか、その違いだと思う。