本の紹介-アフガニスタン史2022年01月13日

 
前田耕作、山根聡/著『アフガニスタン史』河出書房新社; 新装版 (2021/10)
初版の出版は2002年10月
 
 本は第一部と第二部に分かれ、ページ数は、ほぼ半々。
 第一部はアフガニスタンの古代から1979年のソビエト進攻まで。第二部はソビエト進攻以降、2002年の米軍進攻・タリバン崩壊まで。初版は2002年の出版なので、それ以降の米軍統治やタリバン政権の復活などは含まれない。内容は主に政治権力と闘争の歴史でアフガニスタン政治史の詳細な教科書と言ったところだろうか。記述内容が詳細なため、各政治勢力が入り混じっていて、基礎知識がないと混乱して読みにくい。

 現在のアフガニスタン混乱の発端はソ連進攻前後にあることは明らかだ。P144の小題は「米ソの代理戦争」となっているが、この項の内容はソ連の軍事侵攻とムジャヒディンの戦いが記されているのみで、米国がどのように関係しているのかが書かれていない。米国CIAは直接テロリストを養成する、ゲリラ勢力に武器を渡すなど、重要な役割を演じていたが、必ずしも詳細は明らかになっていないので、本書では書かれていないのだろうが、何も触れられていないと、代理戦争の意味が分からない。
 本書の最後に「タリバンは消滅したのか」「歴史から学ぶこと」のコラムがある(P229~P233)。タリバンはアメリカの軍事介入で崩壊した。本書では、同じタリバンが復活することはなくても、違うタリバンが起こる可能性を指摘している。実際には、ほとんど同じタリバンが復活したので、著者の予測以上に米軍の進攻は悪だったことになる。
 第二部のはじめに、アフガニスタンの統括として以下の記述がある。
「現在のアフガニスタンが抱える対立構造とは何なのか。離散集合するグループ各派は、それぞれの利害に応じて周辺諸国を巻き込み、周辺諸国もこれに積極的に関与していったのだった。こうして内戦は泥沼化し被害は拡大した。(P135)」
 細かいことをいうと、周辺諸国ではなくて、周辺諸国+アメリカ・サウジアラビアだろう。1980年代は東西冷戦下にあったので、米ソ対立の中での代理戦争と捕らえることが多かった。このため、1980年代ならば著者の記述もあながち間違いとは思えない。しかし、その後の世界を見ると東西冷戦終結後も、アメリカがイラク・リビアを攻撃し、政体を破壊し、内戦の混乱状態を作り出している。イラク・シリアからISが生まれたことは多くの人が知ることだろう。アフガニスタン・イラク・リビアに共通することは、アメリカが政治権力を破壊して、内乱状態を作り出したということだ。イラク・リビアを見れば東西対立やソ連の問題ではなく、アメリカの軍事侵略の問題であることは明らかだ。
 アフガニスタン各勢力の対立が内戦状態の原因と捉えてしまったら、それは、アフガニスタン国民に酷というものだ。どの国にだって、各勢力間の利害対立があるのは当たり前のことだ。それが騒乱にならないように国家権力が存在するのだから、国家を破壊したら、内部対立が起こるのは明白なことだ。

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