本の紹介-インド仏教の歴史2022年05月30日

 
竹村牧男/著『インド仏教の歴史』講談社学術文庫(2004/2)
 
 インドにおける仏教思想の変遷を中心とした仏教史の概要。ただし、本書で取り上げている範囲は、おおむね唯識までのため、インド密教については記載されていない。
 
各章立ては以下のようになっている。
 第1章 仏教の原点――ゴータマ・シッダッタの目覚め
 第2章 部派仏教の展開――アビダルマの迷宮
 第3章 大乗仏教の出現――仏教の宗教改革
 第4章 空の論理――中観派の哲学
 第5章 唯識の体系――瑜伽行派の哲学
 第6章 その後の仏教――「空」の思想の行方
 
 仏教思想の解説では、角川書店刊行の仏教の思想全12巻がある。角川書店の本では、1巻から4巻がインド仏教思想であり、本書では、第1章、2章、4章、5章が角川本の第1巻から4巻にそれぞれ対応している。角川本に比べ、本書は分量が少ないので、インド仏教史、特にインド仏教思想史がざっくり理解できる。
 
 第3章は角川本では独立した巻となっていない内容で、大乗仏教の起こりと、主要経典である、般若経典・華厳経・法華経・浄土経典について説明されている。大乗仏教の起こりとして、本書ではダルマバーナカ(法師)の存在と、彼らが、布教の中心となったとの説明がある。かつては、部派仏教のうちの大衆部系の中から生まれたのだろうとの推測もあったが、部派仏教内部ではなく周辺の存在を重視した説明は、納得できるものだと感じる。ダルマバーナカとは、音楽や手品などを民衆の間で行う旅芸人のようなものであり、修行僧に比べ賤しい存在だった。ダルマバーナカが大乗経典布教の中心であったが、著者は、大乗経典の作成がダルマバーナカであるとしてはいない。本書では、大乗経典の作者について以下のように記述している。
 「部派仏教の中の修行者の特殊なグループだったのか、それともまったく部派の外にいた求道者のグループなどだったのか、あるいは両者の共同になったのかもしれず、確かなことは何も判らない。作者を示唆することもない大乗経典の出現は、誠に不思議の出来事である。」

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