本の紹介―問題はロシアより、むしろアメリカだ2023年08月15日

  
エマニュエル・トッド、池上彰/著『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』 朝日新書 (2023/6)
 
池上彰が質問してエマニュエルトッドが答える形での対談。池上は話の進行が上手なので、本は読みやすい。

 ウクライナ戦争では、ゼレンスキーを一方的に正義として、プーチンを一方的に悪とする論調が、西側世界で支配的である。本書の中で、エマニュエルトッドはこのような風潮を批判して、事実を正しく理解することを主張し、池上もその考えに同調している。ウクライナ戦争が、アメリカの世界戦略の中で生じたことは明らかなので、著者の見解は正しく世界を理解しようとする人のは重要だ。
 本書では、ウクライナ戦争にとどまらず、アメリカの没落や、西欧・アジアの家族の違いの言及もある。
  
 エマニュエルトッドは米国に対して次のように言っている。
 「アメリカは'悪'でもないけれど、いわゆる'完全な善'でもなくなっているということは確かだと思いますし、イラク戦争は思い返すと本当にひどかった戦争ですが、今はそれがヨーロッパで行われていると言えるわけです。(P125)」
 イラク戦争は、イラクに核兵器があるとアメリカが嘘を言って始めた戦争で、ウクライナ戦争は、ゼレンスキーによるドンバス地域での虐殺・人権弾圧をアメリカが推進したことにより始まった戦争なので、両者は類似点がある。イラク戦争で、多数のイラク人を殺害することに成功したアメリカは、その後石油利権を手にした。ウクライナ戦争では、アメリカがウクライナの穀物利権を手に入れられる可能性は高くなさそうなので、その点では類似していない。
  
ウクライナ戦争はいつになったら終結するのだろうか。この件について、かなり長引くと二人は予想している。
 「池上:私は、このウクライナ戦争はこの先10年は続く「10年戦争」になると言っています。
 トッド:私は5年だと思いますね。人口動態で見ると、ロシアの人口が最も減り始めるのが5年後であること、また第1次世界大戦、第2次肚界大戦ともに5年ほどで終わったということもあります。
 池上:おそらく私が推測するに、プーチン大統領の頭のなかは第2次世界大戦中のi941年6月から45年5月にかけて戦った「独ソ戦」があると思います。このとき、ドイツの侵略を受けてまさに現在のウクライナの土地で大戦車戦が展開され、4年かかってドイッを追い出した。だから、少なくとも4年ぐらいは続くだろう、くらいのことはプーチン大統領は考えているのではないかなと思っています。(P176)」

* * * * * *

<< 2023/08 >>
01 02 03 04 05
06 07 08 09 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

RSS