本の紹介-プーチンの10年戦争 ― 2023年10月26日

池上彰、佐藤優/著『プーチンの10年戦争』東京堂出版(2035/6)
池上彰、佐藤優による対談。プーチンのいくつかの重要演説をもとに、ウクライナ・ロシア戦争を解明するもの。話が上手な二人の対談なので、読みやすいが、何となく表面的な説明にとどまる感じがした。対談ではなくて、論文、あるいは解説として執筆した方が理解が深まったような気がする。
また、ウクライナ近代史、クリミア現代情勢の説明もそれぞれ一章を使っているが、それほど詳しい内容はない。
戦争が長引いている理由を以下のように説明している。ロシア・ウクライナ情報収集の第一人者の見解として傾聴に値する。
佐藤 それから、ロシアの基本的な概念については、プーチンが何度も繰り返し表明しています。「ウクライナ人は同胞である」と。だから攻勢さえ保っていれば、将来の自国民を無理に殺害する必要はない。進軍が遅いのはそういうイデオロギー的制約があるためなんです。
池上 ところが、西側はその理屈をわかっていない。ロシア軍は兵器や弾薬が足りていないとか、最前線の軍隊の士気が低いとか、聞いて心地のいい理由づけに終始している感じですよね。
佐藤 状況を冷静に分析すれば、ロシア軍が決して劣勢ではないとわかります。例えば、四州にはもともと二〇一二年時点で、九五〇万人が暮らしていました。二〇一四年からの戦争でドネツク州とルハンスク州からはかなりの人が逃げ出しました。正確な統計はないのですが、現時点でロシアが実効支配する地域に五〇〇万人が残っていると仮定します。一方、二〇二二年九月一二日の時点で、この地域に駐留するロシア軍は推定で三五万人。その大半は戦闘に回るので、地域の治安維持を担うのはせいぜい五万人だと思います。だとすれば、わずか五万人で五〇〇万人を統治できていることになる。これが何を意味するか、健全な常識を働かせればすぐにわかるでしょう。端的にいえば、統治ができている。(P25)
日本の報道は著しくいい加減だ。佐藤優は次のように言っている。
佐藤 開戦当初にどういう報道があったか、思い出してみればいいと思います・プーチンは末期がんに冒されているとか、戦場でロシア軍が化学兵雛を使っているとか、東部の都市マリウポリでコレラが発生して一万人が死亡したとか、ロシア国民はどんどん国外に脱出しているとか、二〇二二年六月からウクライナ軍の反転攻勢が始まり、二二年中にロシア軍をウクライナ領から放逐するとか。しかし全部嘘か、もしくは誇張がありました。 また多くの有識者がメディアに登場し、これらの情報をもとにさまざまな分析や見通しを語っていました。しかしそもそもの情報が怪しいので、そういう人たちの見解もたいてい的外れでした。 発信源はウクライナ政府やイギリス国防省など、いずれも公的権力です。アメリカのネオコン系のシンクタンクである戦争研究所の主要な情報源もイギリス国防省を中心とする公的権力と私は見ています。問題は、それをメディアが鵜呑みにして報じていること。公的権力が嘘をつくはずがないという前提に立っているわけです。まるで警察が発表する交通事故の死者数のように。(P271)
本書、後1/3程度に、プーチンの演説が記載されている。また、ゼレンスキーの演説も少し記載されている。