本の紹介-北朝鮮拉致問題の解決 ― 2024年07月04日

和田春樹/編著、田中均・蓮池透・有田芳生・福沢真由美/著『北朝鮮拉致問題の解決』岩波書店
岩波書店の単行本。編著者の和田春樹は、ロシア史・朝鮮史の研究者。
北朝鮮拉致問題は小泉内閣のときに生存者5人が帰国し、8人の死亡が伝えられた。これに対して、救う会主導の被害者家族会は全員の一括帰国を求めたため、日朝交渉は膠着し現在に至っている。救う会は北朝鮮に反対する右翼系団体で、メンバーには暴力団風のものもあった。北朝鮮から死亡の詳しい状況が伝えられていない者もあったので、被害者家族が、死亡を受け入れられない気持ちは理解できるが、それと外交は異なるだろう。事実、他に拉致被害者の生存がいることが伝えられたときに、救う会・家族会は、全員一括帰国を主張し、生存者の調査を辞めさせた。
拉致被害者のうち、横田めぐみさんは、死亡のいきさつが帰国した拉致被害者や、北朝鮮で結婚した夫の証言などで、かなり詳しく伝えられた。これによると、鬱病発症後に結婚したが、出産後再び産後鬱になり自殺したとのことだ。横田めぐみさんの遺骨の一部が、元夫からもたらされるも、科警研の鑑定では「DNAが検出されなかった」となり、別の鑑定では「別人のDNAが検出」となった。これに対して、細田官房長官(当時)は、「別人の骨」と断定した。「別人のDNAを検出」したとする大学助教は、その後、警視庁に栄転し、マスコミ取材を一切拒絶している。北朝鮮からもたらされた遺骨は、日本政府が抑えており、再鑑定がなされていない。
本書は、拉致の実態・拉致問題と日朝交渉、救う会と家族会、横田めぐみさんの問題など、拉致問題を事実に基づいて書かれており、拉致問題の全貌を知ることができる。右翼のプロパガンダを声高に唱えたいだけの人には、本書は適切ではない。
「めぐみへの誓い-奪還」なる劇・映画が上映されることがあるが、著者の蓮池透・有田芳生によれば、事実と異なり、北朝鮮をフィクションで批判する部分が入っているとのことだ。拉致問題を考える上で、事実は何かという点を正しく抑えることが肝心と思う。